百年もたてばそう(くわぶぜ) さらさらと糸を引くような細かな雨は終わりゆく夏を感じさせた。ここ数日冷房のいらない日が続いている。あんなにも異常気象ともいわれるような酷暑を皆が恨んでいたというのに、それが過ぎ去ってしまった今は少し物悲しいと豊前は思う。そもそも豊前は夏が嫌いではない。どちらかと言えば外で走ることができない秋雨の方が苦手である。
昨夜から続く長雨が音を閉じ込めているかのように本丸は静かだった。いつもなら中庭で短刀たちがはしゃぎ、畑では当番のものが汗を流し、遠征や出陣で賑やかいというのに、雨で外出はできず審神者が会議で不在というそれだけのことでこの場所はこんなにも静寂に包まれる。
パサリ、と紙のめくれる音がした。二人部屋のこの部屋にいるのは勿論豊前の同室者である桑名だ。積み上げられた本を一冊、また一冊と消化していく姿は雨の日や夜には見慣れたものである。
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