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    下町小劇場・芳流

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    POIPOI 41

    大昔のロマサガ1小説。
    ちょっとだけグレイ✕クローディア。
    年越しの話。
    SF版ロマサガ1を前提にしているので、ミンサガとの矛盾、イメージ違いがあります。
    2004.1執筆。
    このジャンルの作品の中では、新しい方(待て)。

    #ロマンシングサガ1
    romancingSaga1
    #ロマサガ
    romancingSaga
    #グレクロ

    十二の葡萄 年の瀬のメルビルは、普段の落ち着いた佇まいが嘘のように、賑わっていた。
     北が暑く、南が寒いこの地方では、年末は、夏の盛りである。
     惜しげもなく降り注いだ高い夏の日差しは、今はもう海の向こうに姿を消し、代わって街角を照らすのは、市民お手製のランプである。普段は家の中にしまいこまれている机や椅子を表通りに出し、仄かな灯かりとともにその上を彩るのは、秘蔵のワインにとっておきの魚や野菜。人々は思い思いの格好で、飲み、歌い、そしてちらちらと一定の方向に視線を向けていた。
     彼らの注視する先にあるのは、世界で唯一のエロール正神殿である。マルディアス十二神のうち、最高位に位置する神々の父エロール。それを祭った世界でただひとつの由緒正しい神殿は、森の中に屹立していた。そして、その聳え立つ宮の頂きには、これもまたこの街でただひとつの時計塔とともに、二つの月光を受けて輝く、荘厳な鐘が備え付けられていた。
     今年も、残すところ数十分。過ぎ行く時を惜しむように、今年という時の死と新しい年の誕生の祝いとを、人々は歓喜と祝福で迎えようとしていた。この葬儀を締めくくり、そして新しい祭りを始めるものは、例年決まっていた。そのときは、刻一刻と迫っていた。
     街中で年越しを向かえることは、クローディアには初めてのことであった。彼女は、これまでずっと森で暮らしてきたのだ。このような人ごみを目にすることも稀であり、そして、これほどの人々が誰に言われるでもなく宴を催しているのが、彼女には不思議で仕方がない。
     宿から表通りを眺めていたクローディアは、同室のアイシャに腕を引かれた。彼女もまた、街での年越しは、初めてのことであった。アイシャは、少女らしい輝くような瞳で窓の外を覗き込んだ。
    「すごいお祭りだね、クローディア。」
    「ええ・・・そうね・・・。」
     しかし、クローディアの返事は、アイシャとは対照的に物憂げであった。彼女は、この賑わいの意味が理解できないのだ。それでなくても、人ごみは苦手だというのに。
    「ね、ね、ちょっと外に出てみない?」
    「でも・・・。」
    「大丈夫!グレイも連れて行くから!」
    「え、あ、待って、アイシャ。」
     アイシャは、クローディアの返事も聞かずに彼女の腕を引っ張った。そのまま、転がるように宿の部屋を後にした。



     彼女たち旅の一行が定宿にしているのは、表通りから少し入ったところにある安いアパルトマンである。短期貸しをしているこの集合住宅は、旅休めにはもってこいである。普通の宿より安いのもまた魅力だ。
     そのため、一般の宿屋よりも長居する客が多いここでは、主人と客との交流も盛んであった。
     この日も、アパルトマンの主人は、常連客のため、道まで大きく机を出し、路地の上にパブを出張させていた。たいていの宿では、二階以上が個室であり、一階はレストランかパブになっている。このアパルトマンも同じ作りになっており、今日だけは一階のパブが路上にまでせり出していた。
     表に出されたテーブルを囲み、さっそく振舞われたサービスのワインを酌み交わしているのは、長らく旅を共にしてきた仲間達であった。クローディアを引き連れたアイシャは、人ごみの中に男達の姿を見かけると、彼女の手を引いたまま駆け寄った。
    「グレイ、ホーク!」
    「ようっ、アイシャ!」
     すっかり上機嫌で少女に手を振ったのは、陸(おか)の上の海賊。キャプテン・ホークである。察するに、もう酔っているらしかった。対照的に、樽で呑んでも酔わないと評判のグレイは、いつもと同じく頬に赤みさえ見せず、余裕でグラスを傾けていた。
    「グレイもこっちにいたんだ。出ているならそう言ってくれればいいのに。探したんだよ。」
    「・・・俺をか?」
    「はい、クローディア。」
     アイシャは、まるで届け物をするかのように、クローディアをグレイの隣に座らせた。グレイはちらりと横目でクローディアを見やると、酒の入っていない果汁のグラスを彼女の前に差し出した。
     クローディアは、落ち着かずに周囲を見回していたが、戸惑いながらもその杯を受け取ると、ようやく手の置き所が見つかったかのようにじっとグラスを握りしめた。
     グレイは瞳だけ横に向け、その様を見守っていた。クローディアが一息ついたことを確かめると、ここで初めて彼女に言葉をかけた。
    「慣れないか、こういうのは。」
     クローディアは、懸命に首を横に振った。
    「そうじゃないの。前みたいに、何でも怖いって言うんじゃなくて・・・。ただ、よく解らないから。」
    「難しいことはない。こうして年が明けるのは、毎年祭りみたいなものだ。楽しめばそれでいい。」
     グレイの言葉尻を、ホークが捕らえた。呑むと機嫌がよくなる彼は、すっかり陽気に出来上がっていた。
    「そうそう、固苦しく考えるなって。楽しむのが一番だぜ。」
    「・・・お前は単に飲めればいいんだろうが。」
     辛辣に、年下とも思えない釘を差すのは、もちろんグレイである。反論しようとしたホークを右手で制し、グレイはすっと遠くのエロール正神殿の灯かりをクローディアに示した。
    「あの神殿が見えるか?」
    「ええ。」
    「もうじき、年が明けるときに、あの神殿が鐘を打つ。それが祭りの合図だ。」
    「鐘を・・・?」
    「ああ。意味は知らんがな。」
    「へえ、こっちでも同じなんだね。やっぱり十二回、鳴らすの?」
     にゅっとテーブルに伸びた手と共に、バーバラが現れた。酔いのためか、踊りのためか、微かに頬が上気しており、それがまた彼女をいっそう艶っぽく見せていた。アイシャが嬉しそうに彼女を呼んだ。
    「バーバラ!踊ってきたの?」
     卓上から奪ったばかりの大粒の葡萄を口に運び、彼女はアイシャに目配せをした。肯定の意味だ。
    「そりゃあそうよ。おひねりもこの通り、しっかり頂いてきたわよ。」
    「わあっ、すごい、バーバラ!」
     アイシャは両手を叩いて喜んだ。艶やかで、華のあるバーバラは、ある意味、少女であるアイシャの憧れである。その活躍が嬉しいのだろう。
     バーバラは、手近なテーブルから椅子を持ってくると、彼らの卓に割り込んだ。グレイたちと同じように、しっかりワインのグラスを頼み、上機嫌でそれを傾けた。
    「何処も年越しは同じだね。あたしのいたところも、やっぱりこうして年明けに鐘を鳴らしたの。」
    「へー、フロンティアでも?」
    「そう。っていっても、フロンティアじゃ、まだ神殿も大してないんだけどね。その分、遠くの神殿の鐘が、すこーしだけ、微かに響くのよ。」
    「へええ・・・そういうのも静かでいいね。」
    「でもこっちじゃこれはないみたいだね。」
     そういって、バーバラはテーブルの真ん中に置かれた大皿から、ひと房、葡萄を掴み上げた。つやつやと、紫檀のように光るそれは、ブルエーレ地方の特産品である。まだ時期が早いので、収穫量はそうでもないはずだが、同じ帝国内ということもあって、ここメルビルでは、相当量が流通していた。
     バーバラは、葡萄の粒を房からもぎながら、言葉を続けた。
    「あっちではね、年越しの鐘が鳴るとね、それに合わせて葡萄を食べるのよ。上手く食べきると、その年はいいことがあるってね。ただ、子供だと、皮がきれいにむけなくてね。喉に詰まらせるって、慌ててる母親をよく見たわよ。」
     そういいながら、バーバラは、すっかりテーブルにあった葡萄を房から外しきってしまっていた。そして数を数えながら、ひとつずつ、各自の皿に乗せていった。
     グレイは眉を潜めた。
    「おい、まさか。」
    「そっ、そのまさか、よ。せっかくだから、フロンティア風新年、といきましょうか。きれいに食べ切れたら、来年はいい年よ。」
     バーバラは、少し悪戯っぽそうにウインクして見せた。祭りやイベントごと、ゲームには目のない彼女である。どんなときでも仲間内を盛り上げるのは、彼女の役目であった。
     早速アイシャが、その手を上げた。年若いだけあり、さまざまなことに興味の尽きない彼女である。
    「へー、面白そう。あたしやるー。ホークもやるでしょ?」
    「まあ、たまには付き合うか。」
     しかし、グレイは面白くなさそうに、重い溜め息をつくだけであった。
    「馬鹿馬鹿しい。俺はやらんぞ。」
    「付き合い悪いわねー。いいじゃない、このくらい。それとも飲みが足りないかしら?いいわよ、いくらでも付き合ってあげる。」
    「・・・。」
     間髪いれずに畳み掛けられ、グレイは観念した。彼も相当酒には強い方であるが、バーバラもなかなかなものだ。しかも、彼女は酔うと賑やかになる。騒がしく酒を飲むことが好きではないグレイは、バーバラと長時間杯を酌み交わすのはごめんであった。もちろん、バーバラもそれを承知である。だからこそ、このやり取りになるのだ。
     バーバラは、クローディアにも皿を進めた。
    「はい、クローディア。たまにはいいでしょ、こういうのも。社会勉強だと思っておきなよ。」
    「え、ええ・・・。」
     バーバラの迫力に、クローディアが敵うはずもなかった。
     そうこうしているうちに、神殿の時計塔の針が、二本、綺麗に重なった。
    「あ、ホラ!鐘が鳴るよ!」
     メルビルの隅々に、荘厳な鐘の音が響き渡った。
     ひとつ。
     去りゆく年の別れを。
     ひとつ。
     迎える年への祝福を。
     ひとつ。
     このときを迎えられたことに父なるエロールへの感謝を込めて。
     鐘は十二回、鳴り響く。惜しむように、染みるにゆっくりと。すべての人々への祝福をこめて。
     そして、十二回目の鐘の余韻が響き渡る中、何処からともなく、歓声が上がった。
    「新年おめでとう!!」
    「新しい年を、神に感謝を!」
    「我らに幸いありますように!」
     口々に述べられるのは祝いの言葉。そしてその合間を縫い流れる背後の曲は、乾杯のグラスの音響。街全体が祝福に包まれる中、街角のテーブルの真ん中で、バーバラは威勢良く、両手を叩いた。既に彼女は椅子を押しのけ、立ち上がっていた。
    「はいっ、そこまで!」
     彼女は、全員の皿を大きく見回した。先ほど配った葡萄の粒は、アイシャの皿にまだ一つ、二つ残ってはいたが、ほとんど綺麗に空になっていた。
    「なーんだ、みんないけるんじゃない。ふーん、クローディア、綺麗に食べるね。」
     バーバラは、クローディアの皿の上に残された葡萄の皮を見下ろした。そこには、先ほどまで中身が入っていた葡萄が、まるで袋の中身だけ置き忘れたかのように、丸く皮だけが残されていた。
    「果物は・・・森でもたくさん食べていたから。」
     クローディアは、少し恥ずかしそうに、バーバラを見上げた。成人しているとは思えない、少女らしい佇まいに、バーバラは何かを思い出したかのように、にっこりと笑った。
    「それに引き換え・・・。・・・グレイ、何でアンタの皿、皮すらないのよ。」
    「皮ごと食っただけだ。」
    「あーあ、全くこれだからね。ダメじゃない、占えないわよ。」
    「え?占い?」
     神秘的な言葉に、アイシャが身を乗り出した。
    「そっ。ま、言い伝えだけどね。残った皮を見て。いくつ、綺麗に残ってる?」
     自分の皿を見下ろし、今度はホークがぼやいた。
    「ほとんど破けてるなあ。」
    「クローディアは綺麗に残ってるよね?うふふ。いいこと教えてあげる。」
     バーバラは、一段声を低くした。まるで、秘密の伝言があるかのように。
    「・・・この葡萄ね、綺麗に食べられたら、その年は『想い』が叶うって言われてるんだ。」
     意味深な、その言葉の意味するところは。クローディアは目を見開いた。
    「えっ・・・。」
    「なっ、バーバラ、おいっ!」
     慌てて彼女を制しようとしたグレイであったが、バーバラのほうが一足早かった。彼女は、ひらりと薄絹の如く翻ると、アイシャとホークを促した。
    「さーて、飲みなおそっか。ちょっとおいで。アルベルトたち、探しに行かないとねー。」
    「ね、ねえ、バーバラっ!」
     懸命に、アイシャがバーバラに追いすがった。バーバラの右手は、しっかりとホークの首根っこを掴んで引きずっていた。
     ホークは、背の低いバーバラに半分転がるように引きずられながら、とっさに掴んでいた葡萄の皮を指先に摘んでいた。もちろん、先ほど彼が中身を頂いたものだ。皮はものの見事に大きく裂け、ぼろきれのようになっていた。
    「そんな意味があるんなら、先に言ってくれよー。もうちょっと上手く食ったのになあ。」
     ぽいと、葡萄の皮を投げ捨てたホークに対し、バーバラは呆れたように呟いた。
    「なーに騙されてんのよ、オヤジ。嘘に決まってるでしょ。」
     思いもかけないバーバラの返事に、アイシャは驚嘆の声を上げた。
    「えーっ!嘘なの!?」
    「しー、アイシャ!聞こえるでしょ。」
     バーバラは慌ててアイシャの口を塞いだ。二人の席からだいぶ遠ざかったとはいえ、この娘(こ)の甲高い声はよく通る。
    「言っとくけど、葡萄を食べるって言うのは本当よ。嘘は最後の占いだけ。」
    「で、でもなんで。」
    「んー?何でかなー?おねーさんのちょっとしたサービスってとこかしら。ほんとになるといいわねー。」
     何処となく、互いを思う気持ちがありながらもそれを全く表に出さないグレイと、そして自分の気持ちに気付いてもいないクローディアと。世間の波に揉まれすぎたバーバラには、その様が可愛らしくて仕方がなかった。なんて純粋な、子供のような心なのだろうか、と。
     バーバラは機嫌よく、思いっきりホークの背を叩いた。
    「さ、ほら、飲み直し!アルベルトたち探すよ!」
    「おいおい、まだやるのかよ。」
    「何言ってるの。今日は一晩中よ!」
    「賛成―!」
     古都は、束の間の休暇を楽しみ、そして旅人たちも分け隔てない祭りのひと時に酔いしれていた。これからまた出向く旅路の前の、ささやかな宴の夜は、過ぎ去るのを惜しむかのようにゆったりと過ぎていっていた。

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