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    乙麻呂

    @otomaro777

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    乙麻呂

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    Twitterで呟いた、殿下が風信と慕情に向かって南風と扶揺を褒める話です。
    時間軸的に、半月国後くらいをイメージしてます。やや距離のある仙楽トリオです。大きなネタバレはありませんが、日本語版小説を参考にした描写があります。

    #TGCF
    #仙楽トリオ
    senrakuTrio

    将軍と二人の小神官そもそも、全ては成り行きだった。
    たまたま太子殿下が仙京に任務の報告の為に戻っており、たまたま太子殿下と南陽将軍と玄真将軍が霊文殿で鉢合わせした。
    その瞬間の気まずさときたら相当なものだったし、周りの神官達は好奇と不安で遠ざかてこちらを見ていた。
    何人かの神官は慌ててどこかへ行った。
    あれはきっと『太子殿下と南陽将軍と玄真将軍が闘り合うかどうか』、そして『その勝敗』を賭けに行ったに違いない。
    常日頃から好奇の目に晒され、賭けの対象にされてきた謝憐はそう思って苦笑いしながら頬を掻いた。
    南陽はチラッと謝憐を見て眉を寄せ、玄真は二人の存在など見えていないかのように冷たい表情のまま正面を見ていた。
    三人が今にも殴り合うんじゃ無いかと言わんばかりにヒヤヒヤとした表情でこちらを見ていた霊文殿の神官達だったが、女傑と名高い霊文真君は器が違った。
    玄真以上に冷ややかな目で三人を見上げると、スッと外を指差した。
    「お三方も積もる話があるでしょう。席を用意しますので、どうぞあちらでごゆっくりと」
    要約すれば『邪魔だから出て行け』だ。
    武神の中でも名実共に名高い三人を相手でも、ここで暴れて巻物を破損でもしたらその身で代償を払わせると全身で語っていた。
    涼やかな目はどこか虚ろで、目の下にはくっきりと隈がある。
    正直、“凶”の鬼より怖い。
    「将軍方、どうぞこちらへ」
    すかさずやって来た霊文殿の女官に促され、あれよあれよと三人は離れに通された。


    静かな個室に通され茶まで出されては、三人とも立ち去るに立ち去れない。
    何とも重い空気だが、謝憐は重い空気には慣れているので、構わず茶を啜った。
    茶には手を付けず、腕を組んでいた慕情はそれを横目で見て無表情に嘲るような笑いを浮かべた。
    「よくもまぁ、呑気に茶が啜れますね」
    「気遣いを無碍には出来ないだろう?ほら、風信と慕情も喋る気が無いならせめて飲んだらどうだ?」
    風信と慕情は、それぞれ名を呼ばれた瞬間にピクリと眉を跳ねた。
    風信は渋い顔をしていたが、ややあって湯呑みを手にした。
    それをズッと啜り、良いとも悪いとも言わずに卓に置く。
    慕情は薄色の茶を見遣り、やはりハッと笑った。
    「香りも悪いし、器の品も無い。こんな茶を出されて気遣いなんて殊勝なものは感じませんね。ただの追い払う口実でしょう」
    「慕情、君の淹れた茶と比べてはいけない。君の茶に比べればどんな高級な茶も悪く思えてしまうだろう」
    慕情は昔、太子殿下に茶を淹れていた。
    勿論、太子殿下に出す物だから茶葉は一級品であったが、それ以上に慕情の茶を淹れる腕は最高だった。
    謝憐は長く生きているが、慕情以上に茶を淹れるのが上手い人を見たことが無い。
    そう思っての本心から出た言葉だったが、慕情の表情がやや曇ったのを見て、失言だったと思った。
    慕情が箒を禁忌とするなら、茶も同様なんだろう。
    風信はそんな慕情の気持ちに寄り添うつもりなど毛頭無く、また茶を啜ると嘆息した。
    「で、太子殿下は何故こちらに?任務は終わったのですか?」
    社交辞令と言うか他に話題が無いのがありありと分かる苦い問いだが、空気が凍るより余程良い。
    謝憐は気を取り直して笑みを浮かべた。
    「ああ。鬼の討伐がようやく終わったので、霊文殿に報告に来たんだ。……………そう言えば、君達の小神官にはまた世話になったな」
    ピクリ、と風信と慕情の眉が動いた。
    「………………また、例によって、下界に降りたのは扶揺の独断ですけどね。私は後から聞きました」
    こちらを見ないまま慕情が辛辣に言う。
    風信も口を曲げ、低い声で言った。
    「ええ。しかも、任務の途中で帰って来たでしょう。…………最後まで手伝えなかった事は、申し訳ないと言っていました」
    「それはお前の指示だろう?南陽将軍。任務を途中で投げ出すとは、上が上なら下も下だな」
    慕情が笑う。風信はそれを睨み返した。
    「お前のとこの小神官だって任務の途中で帰還したと聞いたぞ!」
    「まぁまぁ、南風も扶揺も南陽殿と玄真殿の神官なのだから、そちらの任務を優先するのは当たり前だ。君達は悪くない。だから喧嘩するな」
    「「喧嘩などしていません」」
    腕を組んでフン、と吐き捨てるその動作と言葉はそっくり同じで、謝憐は苦笑いを誤魔化すように茶を一口啜った。
    「南風も扶揺も、本当によく頑張ってくれているんだ。むしろ私の手伝いにばかり来てくれて申し訳ない。自殿の任務は大丈夫だろうか」
    二人を罰するも罰しないも、決めるのは目の前の二人だ。
    謝憐の独り言のような言葉に少し黙っていたが、慕情が肩を竦めた。
    「玄真殿は神官が多いんです。扶揺の一人くらい居なくても、何の影響もありません」
    「南陽殿も、特に問題ありません」
    風信もこちらを見ないまま言う。
    謝憐はホッと息を吐いた。
    「よかった。少し心配していたんだ。しかし、彼らは本当に良い子だね」
    喧嘩をするし、小言を言うし、喧嘩をするし、自分の言葉が聞こえてない時もあるし、すぐに白目を剥くし、喧嘩をするけれど、二人ともいざと言う時の判断力と行動力は上天庭の神官にも劣らない。
    いつか、その働きを二人の上官である風信と慕情に伝えたいと思っていた。
    南風も扶揺も、上官に黙って下界に降りて来ていると言う。報告はしても、自分の功績は話さないだろうから。

    …………それに、二人の配下である小神官の話は、自分達の間で一番無難な話題だった。
    二人も、謝憐と世間話はしたくなくとも、自分の配下の話なら話しやすかろう。
    案の定、微妙な顔をしながらも慕情と風信はそれぞれ口を開いた。
    「良い子って年でも無いでしょう。アレでもそれなりに経験は積んでますから」
    「まぁ………実力はあるでしょうね」
    割と良い評価に、うんうんと謝憐は笑顔で頷く。
    南風も扶揺も自分の意思で黙って来たと言うが、裏を返せば『自己判断で行動しても許される』程度には上官の…………風信と慕情の信頼があるのだろう。
    謝憐は嬉しくなった。
    あの若い神官がきちんと評価されているのも、風信と慕情が素気なくも理解のある上官として采配をしているのも。
    謝憐はつい、調子に乗って言葉を重ねた。
    「扶揺は部下に指示をしていたようだが、彼らは地位が高いのか?」
    横目で風信が慕情を見た。彼がどう答えるのか、伺うような空気だ。
    慕情はそれを一瞬鋭く見返し、コホンと咳払いした。
    「あくまで小神官の中でですが、ある程度の指揮権は与えています。全ての案件をわざわざ私が指示していたのでは、体がいくつあっても足りないでしょう」
    通霊陣に住んでいる様子からして、むしろ体は余ってるんじゃないかなと思ったが、謝憐はそれを口にはせず、ただ曖昧に笑った。
    「成る程、確かに判断力には長けているな」
    「すぐ撤退するのを“判断”と言うのなら、確かに優秀だな」
    眉を寄せて風信がボヤいた。慕情の冷ややかな顔が歪む。
    「何だと?………お前は随分扶揺の事を知っているんだな?」
    辛辣な笑みを乗せて慕情が冷ややかに言うと、風信は腕を組んで吐き捨てた。
    「その扶揺とか言う奴の事は知らないが、玄真殿はすぐに撤退するだろう」
    「猪突猛進な南陽殿よりマシだ。無駄な危険を犯すのはただの馬鹿だろう?南陽殿の神官は可哀想だな。上が馬鹿だから皆走り回らされている」
    「お前のとこよりマシだ!!大体…………」
    「分かった分かった。二人とも怒鳴り合うな」
    立ちあがろうとした風信を宥め、謝憐は慌てて言った。
    「ほら、君達が怒鳴り合ってどうする。扶揺の判断力にも南風の行動力にも、とても助けられているよ。同じような能力の神官が三人いるより、違う技術と思考を持った者が三人いる方が都合が良いだろう」
    納得してはいなさそうだったが、とりあえず風信は椅子に座り直し、慕情は苛立ちを紛らわせるように湯呑みを手にした。
    「南風も扶揺も、地位が高いのなら納得だ。あれだけ優秀なら、きっと飛昇するのも近いんだろうな」
    謝憐が楽しみだと目を細めると、風信と慕情は何故か目を逸らしたまま曖昧に頷いた。
    「はぁ………まぁ…………ええ」
    「優秀なら飛昇する物でも無いでしょう。実績はそう簡単には積めません」
    「確かに、飛昇は運もあるからな」
    謝憐はそれ以上追求せず、頷いた。
    「それに、彼らが飛昇したら、もう私を手伝いに来る事も難しくなるかも知れないしな」
    付け足すと、また微妙に沈黙が流れた。
    慕情は茶を啜ってその不味さに顔を顰めていたが、ハッと嘲笑った。
    「扶揺は貴方にとって都合の良い手駒でしょう」
    どこか扶揺を下に見た発言に、謝憐は眉を上げた。しかし、すぐに微笑む。
    「そんな風に思った事は無いよ。私は扶揺も南風も、大切な友人だと思っている」
    ぶっと妙な音がした。
    慕情が茶を噴き出しかけて苦しげに胸をさすっている。
    風信もそれを気の毒そうな、居た堪れなさそうな顔で見遣りながらも、何も言おうとはしなかった。
    「……………なんだ?その反応は。私は変な事を言ったか?」
    「いえ。……………アイツらが殿下を友人と思ってるかは分かりませんが………」
    風信はお茶を一口飲むと、幾分落ち着いた口調で言った。
    「せいぜい使ってやって下さい。アイツも命令された方がやりやすいでしょうから」
    どうせ、また勝手に行くんでしょうからと言い訳のように付け足す風信に謝クスッと笑うと、謝憐は両の手を胸の前で合わせて拱手した。
    「ありがとう。二人にも感謝しているよ」
    慕情と風信はそれを微妙な顔で見ていたが、素っ気なく言った。
    「私は何もしていないと言っているでしょう」
    「私も、感謝されるような事はしていません」

    しかし、三人の間に流れる空気は悪い物ではなく、謝憐は満足げに笑った。
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