玄真殿の手合わせヒュン、と空気を切り裂く音がする。
剣先が掠ってすらいないと言うのに、空気の震えを肌で感じた瞬間、対峙する黒衣の神官は真っ青になった。
木剣を振り抜いた玄真将軍の様子に変化は無く、きっと、いつもの冷淡と言われる表情を浮かべている事だろう。
玄真将軍は、その両の目を幅の広い黒い布で覆っていた。
相手の動きが止まった事に気付き、玄真将軍が口を開く。
「構えを解くな。まだ決着していないだろう」
勝負の最中とは思えぬ、淡々とした物言いだった。
決着など、あって無いような物だろうと神官は思った。
周囲には、既に玄真将軍の“軽い”一撃により、意識を飛ばされた仲間が九人程転がっている。
果敢に挑んでは吹き飛ばされる様を、ただ見ている事しか出来なかった。
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