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    myyの門キラのお話は
    「人は本当に悲しいとき、涙が出ないのだと知った」で始まり「きっと大丈夫だって、今なら言える」で終わります。

    #こんなお話いかがですか #shindanmaker

    https://twitter.com/nowtblnolife/status/1604790844170829824?s=46&t=efHPBL-2G678vF1VSw3YKA

    治る傷の行方父上の赴いた箱館での悲惨な結果について、賊軍となった我々の処遇について、新しい伝聞を聞くたびに母は眉を吊り上げて涙を冷たく追いやった。武家の女であり、己れの母だった。
    「利運、泣いてはなりません。あなたは父上の子」
    就寝前の一時、己れを見ずに母は小さく呟いた。その晩の夕飯はなく己れは腹を空かせて水を飲み草を噛んで、「はい」と答えたことに意味はなく。既に己れは涙の一滴も持ち合わせていなかったが母の望みを叶えているとはさっぱり思えなかった。
    夜中にこっそりと泣いて泣いた母を盗み見たその夜から先、二度と涙を見ることはなかったから、母の悲しみは終わったのだと己れは安堵したもんだ。情は薄いが家族は愛せると勘違いをしていた。
    その母が死んだ日も妻子が出て行った日ももちろん俺の目は乾いていた。悲しみのないなんて無情な人間だと笑いすら漏れた。

    ほら、土方さんが死んだって言われたって。付き合いの浅い夏太郎だって鼻垂らして泣いてんのにさあ、おれときたら喉が渇いて仕方がねえや。声を絞り出す永倉の眩しい禿頭を見ているうちに土方さんは三遍死んだ。話が尻尾を追いかけてぐるぐる回っているのに誰も止められない。感情の濁流を他人事に見ながら、そういやこの戦いの相棒のキラウㇱのやつは「その話はさっき聞いた」とか遮ってやくれんかねっと、永倉の話を真剣に聞くフリしながらちらりと盗み見ると包帯でぐるぐる巻きのキラウㇱの片目とばちりと合った。あまりにじっと見るのでつい目が離せずたじろいで「うっ」と呻めきすら漏れた。射抜かれた。責められている気さえしたがさすがにとばっちりだろう。だからって人ンことそんな見るもんじゃないって、この長話が終わったら言っておこう。
    門倉が気持ちを外に飛ばしているとそのキラウㇱはよろよろと手をあげて永倉の話を遮り、謝りながら頭が痛むと言って体よく帰らせやがった。この場で一番重傷のやつに言われたらいくら老人だって長居できない。こいつ以上の重傷者はまだ治療室から帰って来れないのだ。小言をかわして見送って、医者にもらった鎮痛剤を水に溶かしキラウㇱが体を起こすのを手伝う。まあましになったもんだが当分は不自由だろう。頭痛とやらはあながち嘘っぱちでもなかったようで、背中は熱く汗で湿っていたから一通りの着替えをしてやる。背中が赤く床擦れてきていたので手拭いを濡らしてついでに清拭してやる。腹の立つくらい綺麗な背中を毛流れに沿って撫で清める。足が治ったら手放そう。入れ込むと厄介だ、あのハゲに頼み込んで仕事を見つけて留守がちにするか、いっそフケちまえばいい。手放すことも去られるのも嫌だがおれからいなくなったとて追っては来るまい。理由がないし足は不具だ。黙々と算段をつけ重い男の体を支えていると幾分籠ったため息があったあと、「あんた涙が出ないたちだろう」とおれの核心を抉った。
    「ああ、いいから寝てな。また上がると厄介だ」
    やつは子どものように「うん」と頷いて、頭の隣の定位置に座る俺の顔を眺めながら「ここにいろよ」と命令し、さらに「手を握れ」と甘えたのち、
    「人は本当に悲しいとき涙が出ないんだそうだ。悲しい顔してるぞお前」
    目の前で微睡に吸い込まれるように黒目を長く厚い睫毛の影に溶かしながらキラウㇱはフフと息で笑った。門倉が答えに窮している時間、握った手を遊ばせ門倉の冷たい手を温かくした。
    「これ、眠くなる薬だったのか門倉。俺、お前に話してやらなきゃいけないことがあったのに───」
    「しゃべんな、寝てろよ」
    「嫌だ。怖いんだ、連れ去られてしまう…」
    「いるよ。ここにいる」
    幼なげな顔がきゅうと口を引き結び顎に皺が寄った。いつもの鉢巻の代わりに眉を隠す包帯の下で眉間にも皺が寄っていることだろう。可愛らしくって頭を撫でると強張りが少し解けたようで素直に微睡んで行った。
    「悲しいなあ門倉」

    門倉とキラウㇱが最初に口をつけたのは札幌駅に馬を繋いだ時だった。疲れて気分が悪くてやっと立ってるような時に、馬と馬の間でやたら狭かった。でもそうでなければ門倉はそんなことしなかっただろう。どちらも目を閉じず乾いた唇を合わせただけの児戯のようなそれに、門倉の企みを予感してキラウㇱはムッとした。
    「ここで降りろキラウㇱ」
    「嫌だ」
    一派が一枚岩でなかったとて、門倉だけが特別キラウㇱが早く手を引くことに固執しているように見えた。あの手この手を捏ねて「帰る」と言わせようとしていた門倉の気持ちに沿うことがキラウㇱにはできない。使命も忠誠もない。腕っぷしも戦い方も知らないでついてきた田舎者だ、それはもう仕方ない。門倉には信じられないだろうが、すでにキラウㇱはキラウㇱなりの理由を持っていた。もう探してはいないのだ。迷いはないから聞けない。
    多くは語れぬ状況に、仕返しとばかりに門倉の唇を甘く喰み「次は続きするぞ」と、門倉に似た思わせぶりで出鱈目を言い、門倉の腕を引いて歩き出す。不安で震えているのを無視して。素直でかわいい男を失う予感が雨に打たれて冷たく重いのを、無視して。



    尿意に目が覚めて軋む体を起こそうと肘を張るが、鈍った体はなかなか言うことを聞いてくれない。窓から空を見ると日暮れの近い夕刻、雨が降りそうな重い雲が黒く空を覆っていた。痛む左足を庇って右足を手繰り寄せ、腰から響く痛みを呼吸で逃して腕の力で座る。這うように壁に寄り、段差や棚を使って立ち上がった。不便だが自分で便所に行けるだけましだ。子どもや老人の世話をしたことはあっても世話をされた記憶のないキラウㇱにとって門倉に世話をされたのは居た堪れなく恥ずかしいことだったから。でも、門倉はキラウㇱが痛むことをよしとしない。大人だ、男だと何度突っぱねても物音に勘付いて顔を出すのが常だった。
    「キラウㇱ、起きたの」
    「ああ」
    からからの喉が返事を搾り出すと元々低い声に空咳が乗り、病人みたいで酷い有様だった。このまま病人にはなりたくないので腹と腰に力を入れて体幹を整え目的を果たす。土間に降りて水をもらうとやっとすっきりした。
    「今日は動けるね」
    「ああ、もう夕刻なのに暖かくていい」
    土間の上がりに腰を下ろす。家を一周して少し疲れたことに惨めさと誇らしさが同居して擽ったい。たった数日で痩せた手首が軋むので手のひらで覆い圧迫する。俯くとマタンプㇱ代わりの包帯、和人の木綿肌着に襦袢。和人の家の匂いに、自分が何者であるかを身につけるものに頼りすぎていた気さえする。シサムモシリで知らず気を張っていた緊張感を門倉が抜いていく。こいつは同類のフリして何でもないおれを見抜いて、出し抜くつもりだろう。しきりに帰れと言い、俺の怪我を自分の責任だとでも思っているバカなジジイだ。
    考えてばかりは性に合わないから気を取り直して夕飯の支度の手伝いを申し出たがそっと交わされた。いいと言うなら道具の手入れをしたいと考えていたところに「あっためると楽なら風呂入ってこいよ。沸いてるから。そろそろ臭うぜ」と無神経に唆されて「ひどいな〜」と笑う。いつも通りの違和感に会話が滑っていく。
    「それでも薬飲ませた時なんかひやっとしたよ」
    「悪かった」
    「お前が悪いもんか」
    門倉のくせに力強く言い切るから納得してしまういそうになるが、おれはお前に助けてほしいんじゃない。いじけて湿っぽくなんかなりたくないが根拠なく安心してばかりもいられなかった。
    「そっか。ありがとう門倉」

    夏太郎と一緒に泣き言の一つも言って永倉に叱られでもすればすっきりしたのかもしれない。酒も入れずにもうない機会を妄想できるほど感情に陶酔できない。頭をばりばりかいて下唇を突き出して精一杯の矜持と晩を待ち、酒と一緒に呑み込もうと早々に決めた。そんな門倉をキラウㇱが咎めそうで嫌だったから鎮痛剤に己れの眠り薬を少量混ぜていい人のフリして飲ませ、寝こけるキラウㇱに寄り添って寝そべりやっと甘えて悲しみとやらの輪郭を直視した。寝入り前に一筋溢れた相棒の涙を掬い、味見をしてなんとかおれのもんにならないかと画策する。
    「キラウㇱ、ちゃんと悲しいんかなおれは」



    風呂の介助で一悶着あったが無事一人風呂を獲得し、汗と垢だか土だか血だかなんだか分からない汚れを桶で流す。脛の包帯を庇いながら少しずつ流しているがちっとも濯ぎ水がきれいにならないので一派の置き土産の石鹸を泡立ててみる。上から洗って足に着く頃には多少ましになっていた。
    頭を振って水を払い、脱いだものを着て脱衣所を出ると続きの間に火鉢と桶とあれこれを準備した門倉が酒をやりながら待ち構えていた。
    「包帯巻き直してやるからここ座れ」
    短く言い切るので壁伝いに座り火鉢の側まで躙り寄る。大人しく足を伸ばしていると門倉の視線が持ち上がり額で止まる。キラウㇱは思わずマタンプㇱを手で押さえて庇った。その動作さえお見通しで、キラウㇱの手に自分の猪口を持たせて「気付けに飲んどけ」と酒を注ぐ。門倉は気を遣ってばかりだ。痛くたって泣き喚いたりしないのに。
    「デコん傷もみせな」
    「こっちはもう…」
    「足よりはな。でもこれだってまあまあなやつだぜ。頭の近くで膿を溜めちゃいけない。ガーゼ当てて鉢巻き巻いていいから」
    「…分かった。でも門倉の手当ては俺にさせろ」
    「なんで。いいよそんなの」
    「よくない。やってもらってばかりは嫌だ。お前も怪我人だ」
    「もう平気よ。お前が退院するまでに治っちまった」
    キラウㇱの函館山からここまでの記憶は曖昧で飛び飛びだ。その時期のことを突かれて言葉に詰まっていると、マタンプシを外して晒された傷に門倉がそっと触れる。塗り薬を広げて小さく折り畳んだガーゼを当てた感覚からキラウㇱは素早くマタンプシを巻き直した。
    「眉毛切れたな」
    「変か?」
    「いや。いい男だよ」
    結ぶ直すために俯いていて良かった。言い返すより早く足の添木と古い包帯が解かれていくのが目端に映るがもう何も言う言葉がなかった。今日は、変な門倉に少しの安心感もあった。永倉の話、夏太郎の態度は本人たちにその気がなく事実を説明してくれているだけだとしてもその場に、死地にいなかった門倉が責められている気分になってしまいそうで落ち着かなかった。門倉は永倉と夏太郎と外を変わるがわる見ながら何の表情も変えず、自らを無視しているような反応に見えて思わず手が伸びた。なああんた「悲しい」だろう?きっと賢い門倉は言葉にされる前から知っていたんだろうけど、ずっと悲しかったんだろう。時間薬の効き目を見るにはせっかちだ。それが効くまで悲しみを無視するお前を好きにさせて良いんだろうか。頭の奥がちりちりと痺れるように痛む。
    「この傷さ」
    酒が染みてふわふわしているキラウㇱを呼び止める小さな声に気づくと、大きな縫合跡に塗り薬を広げているところだった。膝下の腫れは落ち着き、赤と黒と斑ら模様はあるもののまあ概ねまっすぐな普通の足だ。
    「もうちょっと上にあったら、例えば膝の上とかもっと上だったらだめだったって。お前運がいいな」
    だめだった、と、門倉は手刀の切先で足を撫でる。切り落とすということだろう。膝の上と下。たかだか4、5寸の誤差はあの砲撃の規模を思えば本当に小さな距離だった。その距離のおかげでまだ足は繋がっている。
    「お前が俺を呼んだんだ」
    「うん」
    「よく聞こえた、撃ったから逃げなきゃって思えた。門倉倒れてたから大丈夫かなって見ようとして、でももう見えなかったな」
    手当てを受けながら口が滑る。慣れない酒のせいかもしれない。昼の客人のせいかもしれない。でも凡そはたいせつなことだけは言えないお前とおれの関係性のせいだ。軽口は叩けるのに、大事な話は煙に巻く。馬乗りで戯れ合えるのに、優しく触るすべがない。急に押し黙るキラウㇱに気づいて「すまん、痛いか」ときつく巻いた包帯を弛めようとするので慌てて首を振ると涙が飛び散って驚く。驚きすぎて言葉が口をつく。痛みが暴れて怒っている。
    「門倉が怪我したら良かったんだ!お前が足を折っていたら土方ニㇱパを追えない理由になったのに、何で俺だったんだ。何で俺のせいでお前が後悔しなきゃならないんだ!」
    大きい声を仕舞えずに息を継ぐ隙間に門倉の小さい声が鋭く届く。
    「キラウㇱ、もう言うな」
    包帯は何事もなく新しく巻き直されていた。
    頭の先まで熱かった気持ちを鼻を啜って堪える。冷たい門倉の言葉がキラウㇱを拒絶しながら、門倉の唇がキラウㇱの左右の頬に触れるか触れないかの距離で涙だけを器用に吸ってから、唇のすぐそばで「次っていつ?」と茶化すから、手の甲で自分の顔を適当に拭う。このジジイのせいで気持ちがぐちゃぐちゃだ。眉が切れていい男ってなんだ、いい男は落ち着いてどっしりして言葉の力を持つ、お前みたいなやつのことだ。
    「…悪かった」
    「お前は悪くないんだよ」
    門倉はけらけらと、ちゃんといつもの調子で笑った。キラウㇱが笑えたら良かったのか、かっかした頭ではもう分からない。
    「お前も早くこの極悪人を見限ってくれや」
    「嫌だ!お前は極悪人かもしれないけど俺には優しいだろ」
    食ってかかるキラウㇱに今度は門倉が目を瞬かせる番だった。満更でもないようだが頭をバリバリかいて下唇をむにゃむにゃと捩って多分照れている。体を翻して立とうとしてやめた。立たれたら追えないからな、ほら優しい。
    「優しいってお前ね。騙されてるよ」
    「貧乏人を騙してどうする。取れるものはないぞ。お前が俺にしたことは、お前が個人的にしたかったことだ。違うか?」
    可哀想がって情けをかけているんじゃない。蔑んで下に見ているばかりじゃない。仲間よりも近い相棒みたいな距離の和人は、否、世界中どこ探したってお前しかいない、俺にはお前だけがいいって強く思う。
    勝手に刺青を背負った背中、これが誇らしくて世界中に見せびらかす日がきっとくる。夏太郎の向こう傷みたいに。今は、たいせつなことから尻尾巻いて、煙に巻いて、無視をするお前の代わりになってやろう。
    「……さてどうかな」
    「お前は自分を無視しすぎだ。俺が見ててやる」
    「悪趣味なやつ」
    「俺に手をつけるお前も充分変なシサムだ」

    “だってお前かわいいもん。可愛くて気も強いから、どこでだって誰とだってやってけるよ”
    言おうとした言葉をすんでのところで飲み込んで「腹、減ったか」と聞くと、やっぱり年より幼なげに「うん」と喜色が返ってくる。可愛いけど、今は知られない方がいいかな。あいつから次の誘いがあったら言ってやろう。これは隠し玉だ。
    夜が来たら母のようにさめざめ泣くだろうか。泣いてもいいし泣かなくてもいいってキラウㇱなら言うだろう。俺は人より鈍いかもしれないが、それでもきっと大丈夫だって、今なら言える。
    食って、飲んで、寝て起きて、生きながら見つけて行こうかなんて、気の長い希望が灯り始めた。
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    nowtblnolife

    DOODLE初夜後にセンシティブな🦌を気遣う✳️が気に入らない🦌です。

    たぬきんお疲れ様でした。パワーをもらいました。
    初翌日掠れた声が名前を呼ぶので、見ていた夢を忘れて目を覚ました。日はとうに上り雨戸の隙間から部屋の奥まで差し込んでいる。
    「寝過ぎた」
    そう言った自分の声まで掠れていて、鼻を掻いたふりして咳払いする。昨日おれを抱いた男が困ったように目を逸らして俯き、たぶん謝ろうとしたので、溜め息の前に二の句で止める。
    「お早う、門倉」

    門倉に雨戸を開けさせて、おれは二組の布団を上げる。澄み切った朝日が門倉の輪郭に輝いて眩しく、そこでようやくいつもの額当てが夜に外れたまま布団と共に片付けてしまったことに気づいて押し入れを改めた。
    朝飯の支度ができなかったので、乾飯と適当な山のものをまとめて鍋で温める間に土間と続き間の掃き掃除を済ませ、道具を磨き、こそこそとイナウを作って火を招くのが遅くなったことを詫びた。ふと、昨晩の行為を咎められるだろうかとどきりとするが、カムイたちはそんなことまで怒りはしないだろう。婚前のふしだらを糾弾するのはたいてい人間だ。火に当たった頬が乾燥して痒い。顔を手で覆いながら背が丸まっていく、朝からあまり良くない。あぐらの座り心地が悪く、今日は敷物が欲しかった。門倉がたまに敷いている座布団を借りようと顔を上げた時、門倉がのそのそと囲炉裏端にきたので反射的に腰をあげる。
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