恋の火葬場「ん」
その一言と共に頬に押し付けられたのは、ひやりと冷たいペットボトル。流れた汗が引いていく感覚に、俺は思わず息を吐き出す。
「……どうも」
つい先ほどまで講師にダンスを教わっていたのだから、いくら"完璧なアイドル"を謳うHiMERUであれど疲れはする。とはいえ、それを表に出すようなことはしていないので、俺の疲労に天城が気付いたことに驚いた。
「それ飲んで汗拭いて、ちょっと長めに休憩取るぞ」
「必要ありません。少し休めば動けます」
――確かに、新曲の振り付けはいつもより激しかった。特に今回は俺の負担が大きい振り付けだったため、普段以上に体力が奪われたことは否定できない。でも、長めの休憩を取らないと動けないほどではない。それこそ、スポーツドリンクを飲んで汗を拭いて、ほんの五分ほど休めば回復するだろう。疲れているとはいえど、その程度の疲労なのである。
だというのに、天城は頑として首を縦に振らなかった。
「休むべき時に休んどかねェと、後半バテたら困るだろ」
「ですからHiMERUは大丈夫だと言っているではないですか。自分の限界くらい自分で分かります」
思わずむっとして言い返す。過度な心配はナメられている気がして不愉快だ。
それが表情にも出ていたのか、天城は呆れたように一つため息を吐く。
「強情」
「なんとでも言えばいいのです。天城の心配など不要なのですから」
「あーはいはい、じゃあそれ飲んだらレッスン再開な」
結局、引いたのは天城だった。
俺は何も間違ったことは言っていない。……言っていない、けれど。天城を突っぱねた後、胸に満ちるのはいつも"後悔"なのだった。