勇者の血 ぼくのおとうさんは、よわむしな木こりです。ちからがとってもつよいのに、まものをみるとすぐににげだす。メルキドのまちの人たちからは、メルキド一のちからもちなんだから、たたかったらきっと勇者さまみたいにつよいのに、といわれています。
おとうさんと勇者さま、はどちらがちからもちかな、とぼくがまちの人にきくと、さあねえ、勇者さまがいればくらべられるけど、勇者さまは、ゆくえふめいになっちゃったみたいだから、とみんなこまったようなかおをする。
勇者さまは、ぼくらがいるアレフガルドをすくった、ロト、という人らしいです。ぼくがうまれるまえのはなし。むかしはあさがこなくてずっとよるだったのよ、とおかあさんはよくいっています。
ぼくのおかあさんはいつでもわらっていて、やさしくて、だいすき。でもいちど、すごくおこられたことがある。メルキドのまちで、むかし勇者さまのなかまだったというまほうつかいの人が、ほのおのまほうをつかうのをみて、ぼくもいえにかえってからやってみたら、おててからばちばちってかみなりみたいなものがでたから、びっくりして、おかあさんに、できたよ、っていった。きっと、すごいねえ、っていってくれるとおもったから。おかあさんはいつでもぼくのことをほめてくれます。
でも、おかあさんは、すごくこわいかおで、それ、もうやっちゃだめよ、とくにおとうさんのまえではぜったいにしないで、といって、それから、かなしそうなかおでぼくをぎゅっとだきしめた。だから、ぼくは、それから、まほうはつかっていません。
ぽつ、ぽつ、とやねからおとがします。ああ、あめだ。
おかあさんが、まどのそとをみて、あの人、かさをもっていってないわ、といったので、ぼくは、おとうさんにかさもっていく、といいました。おかあさんは、ありがとう、でも、きをつけてね、まものがいたらすぐにげるのよ、といって、ぼくにかさを2ほんわたしてくれて、ぼくは、おとうさんがいつも木をきっているところへむかいました。ああ、おとうさんのせなかがみえた、とおもったそのとき、おとうさんのうしろから、ダースリカントが、おとうさんにそのつめを、…ああ、ぼくのおとうさんは、よわむしで、ぜんぜんたたかえないのに!
ぼくは、かさをほうりなげて、てからばちばちとかみなりをだした。ダースリカントは、グアア、とこえをあげて、おこったようなかおでぼくのほうへはしってくる。こわい、こわい! ぼくはにげようとしたけど、あしがふるえて、ころんでしまって、ダースリカントのつめが、ぼくに!
とつぜん、バチバチバチ、とそこらじゅうにかみなりがはしった。すごいおととひかりで、あんまりまぶしくて、ぼくはおもわずめをとじる。ぎゅっとめをつむっていたら、おとうさんがぼくをよぶこえがしたので、そうっとめをあけたら、なきそうなかおのおとうさんが、ぼくのかおをみていました。
「だいじょうぶか、けがはないか」
「おとうさん、おとうさんは? だいじょうぶ?」
「だいじょうぶだよ、……おまえ、まほうが、つかえるのか?」
「……うん、おかあさんに、つかっちゃダメって、いわれてたんだけど」
「そうか、……そうか」
そして、おとうさんは、ぼくをだきしめて、わんわんとなきました。こんなちから、おれだけでじゅうぶんだったのに、どうして、といって、おとうさんはこどもみたいにないて、ぼくのからだを、もっとぎゅっとつよいちからでだきしめてきます。
こんなにないているおとうさんをみるのははじめてで、ぼくは、ああ、やっぱりおかあさんのいうとおりだった、おとうさんのまえでまほうをつかわなければよかった、とおもいました。そしてぼくは、おとうさんがなきやむように、いつもおとうさんがしてくれるみたいに、おとうさんのあたまをいつまでも、なでてあげました。