わたしたちのハッピー・エンドロール◇ルネ
職業:遊び人
性格:のんきもの
遊んで飲んでを生活の主軸にして暮らしている「わたし」の恋人。楽天家で大雑把な性格。ほぼ毎日「ルイーダの酒場」に入り浸っているため、常連客たちとは仲がいい。酒豪。
◇わたし
ルネと共に「ルイーダの酒場」に足繁く通う遊び人。ルネとは同棲中。
ジョッキがばつんとぶつかる音に、飲めや歌えの乱痴気騒ぎ。人や物が奏でる宴の音がただでさえ暑い真夏の空気をまるで窯の中のように熱するものだから、わたしは焼きすぎてぱりぱりになってしまったパンの焦げ目にでもなった気分で酒をあおった。でも、そんな焦げついたパンがわたしは案外好きだったりする。
「真っ昼間だっていうのに、派手に盛り上がってるわねぇ」
すでにボトルを一本空けているルネが、ワインを注ぎながらお気に入りのナッツを口に放った。二日ぶりにルイーダさんちに来てみれば、なにやらいつにも増して騒がしい。わたしの記憶が正しければ今日は祭日でもなんでもない普通の日、だったはずだけれど。酒場の連中が盛り上がるような祝い事でもあったのだろうか。
「オルテガさんとこの坊主が仲間を探しに来てるんだ。世界を滅ぼす魔王とやらをぶっ倒しに行くんだとよォ」
早くもできあがっている顔馴染みのあらくれに問うと、上機嫌な笑いと共に爽快な答えが帰ってきた。ああ、なるほど。どうりで人が多いわけだと納得する。あの英雄、オルテガのひとり息子ともなればこの町一番の有名人だ。
けれども「世界を滅ぼす魔王」という言葉に首を傾げる。積もりに積もった噂話のカードの絵柄はうんざりするほど多種多様ではあったものの、その手の大層な手札は見たことがない。人生で初めて手にしてしまったかもしれない凶悪なジョーカーの札を彼女と共有したくなって、わたしはルネに話題を振った。
「ねぇ、聞いた? オルテガさんちの息子くんが来てるって」
「あ〜、アデルくんでしょ〜。面白いわよねぇ、あのコ」
「なんか、町を出るみたい。魔王を倒しに」
「魔王って、魔物の王の魔王?」
「そう、魔王」
「あらら〜。それは大変」
ふわあ、と大きなあくびをひとつしてから。彼女はこぽこぽとグラスに酒を注ぎ足しはじめた。全くもって「大変」だとは思っていない、間延びした口調。魔王というおどろおどろしい単語が登場したというのに、ルネは呑気にナッツを頬張っているのだから恐れ入る。彼女の頭に描かれた魔王はきっと、ふにゃふにゃした線の、子供の落書きじみた魔物とすら呼べないなにか、だったに違いない。
「魔王だよ、魔王。アリアハンだけじゃなくって世界が、みんなが滅ぼされちゃうかもしれないって話」
「困るわぁ、そういうの。まだ飲み足りないもの」
「えぇ〜……そこで酒の心配をしちゃうわけ?」
「だって〜、昨日は一日シラフだったのよぉ? ルイーダさ〜ん、赤追加! 夜の出勤分でツケといてぇ〜!」
カウンターに向かってぶんぶんと手を振るルネに、ルイーダさんが「はいはい」とあの呆れ顔で頷くのももう何百回目になるのやら。世界滅亡の危機にさらされようが、ルネはやっぱりルネだった。真っ赤なワインと素朴なナッツが大好きなベイビーブルーの瞳には、黒々とした終焉なんてこれっぽっちも映っていない。平和にきらきらときらめく愛すべき宝石に、わたしの脳内の魔王様はあっけなく倒されてしまった。
ごくり、ごくり、と酒を一気に流し込み、空になったグラスを置いて。魔王がどうだとか、世界がどうだとか、どこか遠い国のおとぎ話のような与太話だけれど。わたしはいつか訪れるかもしれない未来を、もう少しだけ鮮明に思い描いてみる。
「ルネはさ……もし世界が終わる時がきて、今日が最後の日だ、ってなったらどうする?」
「最後の晩餐、とかの話?」
「まあ、そんなところ」
新しくやって来たボトルの栓を抜きながら、そうねぇ、と呟くルネ。