金なる夜や目が覚めた。または醒めた。頭が痛かった。ここはどこだ。見上げればどこか荘厳な雰囲気だ。あぁ。分かった。七曜会の本部の上のフロアだ。
体を起こした。重たかった。考える。まもなく、二日酔いだと気がついた。頭の奥がジンジンと痛む。頭が勝手に下に行く。重力に負ける。
左手を動かす。指の先に何かが触れる。
「…?」
頭を動かすのが面倒くさいから、指先でそれをつまんで目の前まで持ってくる。一万円札が三つあった。つまり合計3万円。何が買えるかな、なんてぼんやり考えてしまった。頭が働かないもんだから、何も思いつかなった。
「お目覚め?日曜日」
「待って…俺は、日曜日か…?」
「ええ、日曜日」
それは顔を向けるまでもなく、日曜日の声だ。頭の裏に、勝手に白いスーツが思い浮かばれる。真っ赤なルージュが思い浮かばれる。整った眉が思い浮かばれる。
「俺、何してたんだっけ」
「あらまぁ」
日曜日は楽しそうにカラカラと笑った。人が頭が重くてぐらぐらしてるのに、カラカラ笑うなんて。趣味が悪い人だ。と、心の奥底で思った。
けど、酔っ払ってるのはきっと自分のせいだ。だから、これ以上は何も考えないことにした。
「一人で行ったのよ」
「どこに」
焼けつきそうに、かさついた喉で尋ねる。
「脅迫に」
「誰を」
「そんなの、知らないわ」
「知らないことあるか」
俺は所詮日曜日の手のひらの上で踊ってるマリオネットなんだぞ、って言ってやりたかった。マリオネットな自分に酔っているのかもしれないし、酒に酔っているのかもしれない。マリオネットな自分が好きなのかもしれないし、繰師としての日曜日が好きなのかもしれないし、その何でもないのかもしれない。けれど日曜日はあいも変わらずカラカラと笑うのだ。
「知らないものは知らないの。あなたが勝手にやったの、日曜日。流石ね」
日曜日の妖しい微笑みを、素直に綺麗だと思った。だから、言葉の意味なんて考えてなかった。ただ、褒められたような気がしたから、小さな声で、ありがとう。と答えただけだった。日曜日は笑った。
「流石ね、日曜日」
「それ、さっきも聞いた」
「3万円分。もう一度言ってあげる、流石ね、日曜日」
俺はそれを聞く前に、闇に飲まれた。それは睡魔だった。
睡魔だった?
本当か、ね、それは。知らない間に、脅迫のサディズムに目覚めた果なのかも知れなかった。けれど、そんなの俺の知ることじゃなかった。知らないのだから、ただ眠ったのだ。
眠って目覚めたら金がそこにあるなんて。
歯が抜けた朝以来じゃないか!
俺はぐらつく歯を舌で翫ぶ子供のような気分になってまどろんだ。