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    転生の毛玉

    あらゆる幻覚

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    転生の毛玉

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    【BP】
    #共通お題短文チャレンジ
    にょデビ!

    ##BP

    この感情の名前は「見て、にょーりくん」

    オカルト部門から帰る道半ば、デビスくんはスマートフォンの画面を僕に突き出してきた。
    17時30分の表示。
    すっかり秋も深まってきたこの時期、とっくに日は落ちている。その時刻を示すスマートフォンの画面だけがこうこうと光る。どこかうそ寒いような気がした。実際、空気は冷えているが。

    「ええと、デビスくん。この時間がどうかしたの」
    「え?」
    デビスくんは驚いたような焦ったような顔をして画面を覗き込んだ、それから「あっ」と声を上げる。
    「電源ボタン押してロックかけちゃったみたいだ。ごめんごめん、フヒィッ」
    デビスくんはスマートフォンの画面をたぷたぷと操作する、そして改めて僕に画面を見せた。

    「『当選』?」
    「そう!」

    デビスくんは今度こそやったぞ、と言わんばかりの笑顔で頷く。

    「なにか当たったの?」
    「あのね、セキブンイレブンのホットスナックの半額券。しかも10枚綴り」
    「それはすごい」

    コロッケ、ハッシュドポテト、アメリカンドッグ、フランクフルト、最近は唐揚げ棒や焼き鳥……コンビニのレジ横はいつだって誘惑の塊だ。この寒空の下、部門終わりのやや空腹の中、そのオレンジ色の光をたたえたケースを頭に浮かべるだけでくうっとお腹が鳴りそうだ。

    「ちょっと寄り道していこうよ、にょーりくん。もちろんにょーりくんも半額でさ」
    「え?いいの?」
    当たったのはデビスくんなのに。言葉にしなかったその部分も、しっかりデビスくんには伝わったらしい。
    「どうせ僕一人じゃ、半額券余らせちゃうもん」
    「そうなの?でも……」
    悪いよ、と言いかけた瞬間、今度はいよいよ、くうっ、とお腹が鳴った。くうっ、なんて可愛いものじゃなかった。ぐー!と鳴った。僕は顔が赤くなるのを感じる。空気の冷たさに反してなんだか暑い。
    デビスくんは細い目をさらに細めた。
    「にょーりくんもお腹減ってるんじゃん!さあ、行こう、行こう」
    「え、えぇ〜…」
    「いいのいいの。友達じゃんか」
    友達。その言葉に何処かむず痒さと物足りなさを感じる。しかし、きらきら瞳のデビスくんを前に、頷く以外の選択肢は持ち合わせていなかった。
    「じ、…じゃあ、お言葉に甘えて」
    僕がやや堅苦しい言葉で承諾すると、デビスくんは喜色満面としか言いようのない笑顔になる。それがますます擽ったくて、僕は目線だけそっぽを向いた。

    *****

    「半額っていうから、つい買い過ぎちゃった気がする」
    僕は右手のアメリカンドッグと左手の肉まんを見て呟く。
    「そういう日もあるよ」
    デビスくんは右手のハリケーンポテトと左手のこしあんまんを交互に食べながら答える。
    「まさか中華まんシリーズまで半額なんて。セキブンイレブンは太っ腹だなぁ」
    「それでもまだ半額券6枚あるんだよ。明日も来ちゃおうか」
    デビスくんの提案に、僕は笑うだけで返した。
    正真正銘その店舗の商品を(半額とはいえ)購入した以上イートインコーナーに居座っても良かったのだが、店内は存外蒸し暑く、駐車場の隅の方が居心地がいいという結論に至った。前に古賀くんが『俺たちが悪いんじゃなくて、コンビニの前あたりの居心地が良すぎるのが悪い』と言っていたのも、分からないではない気がする。きっと彼も、寒空の下で食べる温かいフード商品の良さを噛み締めたいのだろう──────違うかもしれない。今度九重八木くん経由で彼の真意を確かめておこう。

    「やっぱり美味しいねぇ。フヒィッ」
    「ねぇ。寒いとますます温かさが身にしみる。フヒィッ」
    僕が返すと、デビスくんは僕の方をはっきり見た。細い瞼の奥の黒い眼とぱっちり意識がつながる。
    「ね。寒いのもそうだけど…キミとの食事は特別美味しい気がする」
    デビスくんのその言葉が、強く、酷く、頭の裏にくっついた。
    「にょーりくんが友達だからかなぁ〜、フヒィッ」
    デビスくんはまるでなんてことないように続けている、が、僕はそれどころではない。能力を覚醒させるやつを飲んだときと同じくらいの衝撃、もしかすると今の僕なら固有結界(にょーりくんワールド)さえ作れてしまうのではないか、そんなはずはないが。そんなぐるぐる不思議な気持ちに殴られ続けて、理由もなく心臓が高鳴る。
    「にょーりくん?」
    デビスくんの声で何処かに飛ばされて、デビスくんの声で正気に戻る。思い返せば、いつか、デビスくんの苦しむ声が僕を正気に戻したことがあるような、無いような。
    「ごめん。ぼーっとしてた」
    「そっかぁ〜。食べるものが美味しいと、つい、ぼーっとしちゃうよね」
    デビスくんは斜め35度上に解釈してくれたらしい。僕はそれをありがたくも寂しく思いつつ、フヒィッ、と笑ってみせる。
    「やっぱり、明日も来たいな」
    僕が言うと、デビスくんは少しキョトンとした顔をして、それからぱっと明るい笑顔になる。夜道なのに眩しい気がして、僕も目を細める。
    「もちろんだよ!また、一緒に食べよう」
    そして、お互いに、フヒィッ、と笑った。

    このむず痒さにつける名前も、特効薬も、僕はまだ知らない。
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