「喫茶店の手伝い、ですか?」
突然呼び出されたと思ったら分校長から告げられた言葉に、特務科Ⅶ組の担当教官であるリィン・シュバルツァーは瞬きをする。
しかし分校長は彼のそんな様子など気にも止めず、そうだ、と言葉を続ける。
「無論、ただの手伝いではないぞ?でなければ、そなたたちに頼んだりはしない」
「それは、そうでしょうけど。…もう少し詳しく、聞かせていただけますか?」
「ああ。…近頃、帝都の一画に新しい喫茶店が出来たのだが。その近くにある店から、そこの店の者から脅されているという訴えがあってな」
「脅されている?まあ競合店ですから、目障りなのかもしれませんが、しかし…」
「あまりに短絡的、と言いたいのだろう?…訴えてきた店には、何度か足を運んだ事があってな。なかなか美味いコーヒーを出してくれるので、その礼も兼ねて少しばかり調べさせた。そしたら、なかなか面白い事が分かってな」
「…面白い事、ですか」
「ふふ。そう嫌な顔をするな、シュバルツァー。…その新しく出来た店にはな、裏社会の人間が関わっていたのだよ」
「裏って。…マフィア、ですか!?」
「正確には、かつてその道にいた者、だな。だが、一般人にとっては大差あるまい」
「なるほど。つまり、しばらく用心棒を兼ねて手伝いをしろ、と。そういう事ですね?」
「それと、手を引かせるか、叶うならば脅迫の現場を押さえて欲しい。そうすれば軍の方で取り調べられるからな」
「………何だか、先日のクロスベルの件を思い出すのですが」
「ジャズバーの一件か。報告書、なかなか楽しく読ませてもらったぞ?…最も、一番肝心な部分については触れられていなかったがな」
「肝心な…って、まさかっ!?」
「シュバルツァー。そなた、なかなかの美人振りだったらしいな?」
「…うう。そんなの、報告書に書ける訳ないじゃないですか…」
「ふふ。まあ、大概の者は信じぬだろうしな?」
「はあ。それで今回の事を思いついた訳ですね?…分かりました、やりますよ」
「そなたの顔はよく知られているが、今回はそれが牽制になるかもしれぬ。よって性別は変えなくていいからな?」
「勘弁してください…」
こうしてⅦ組のメンバーはしばらくの間、シフトを組んで帝都とリーヴスを行ったり来たりする事になった。
更にその喫茶店はいわゆるコンセプト喫茶というもので、店内の内装やメニュー、従業員の制服に至るまで東方の文化を取り入れており、今度はコスプレか…、とがっくりと項垂れるリィンの姿があったとか。
なお、脅迫の現場は時間はかかったものの比較的あっさりと押さえる事ができ、お礼にと制服をもらって喜ぶユウナやミュゼの姿が見られたらしい。
おしまい!