鶴月SS赤い賜物
ロシアのご婦人の話を聞く月島は、自分より大柄な相手の伝えんとすることを理解すべく上目遣いで懸命に聞き入り、ウンウンと頷いたり、首を傾げたりしている。やがて一言、二言、月島が言うことに婦人がニッコリと微笑み頷くと、月島もホゥと安心の溜息をついてクルリと鶴見の方へと振り向いた。
語学の習得は実践が手っ取り早い。とはいえ、けしてそれが容易だというわけではない。見知らぬ土地で、よくここまでやってこれていると思う。私の、ために……。近付いてくる月島の瞳はいつも通り禁欲的だったが、隠しきれない達成感を滲ませていて、思わず微笑みが零れる。
「この町の名の由来について聞けました。エカテリノダール、つまりエカテリーナの賜物……この地を与えた過去の皇帝の名にちなんだ呼び名です」月島は淀みのない明瞭な声でそう言った。鶴見がコックリと頷く。
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