未来は幸福に満ちている 「どう?マティスくん、どこか痛くない?風も強くない?」
「えへへ、大丈夫です」
セレスにドライヤーで乾かされ髪を梳かれくすぐったそうにマティスは笑って返事をした。
「セレスさんは僕の髪を触るのが好きなんですか?」
「えっ、どうして…?」
タオルでマティスの髪の水滴を拭いていたセレスは驚いて動きを止める。
「何となくですけど…セレスさん、嬉しそうなので」
「…うん、そうだね…嬉しいし、楽しい…。マティスくんの髪に触るの…好きなの。なんだか、全てを許してもらえてるような…心を許してもらえているような気がするし。それに、私の髪って短いでしょう?だから、憧れ…みたいなのがもしかしたらあるのかもしれないね」
ふふ、と笑って言うとさらりとした綺麗な髪をはためかせてマティスはセレスの方を振り向いた。
(綺麗…)
そう思っているとマティスはぎゅっとセレスの手を握る。
「気がする…じゃなくて、僕はあなたに気を許していますし、心を砕いています!僕は……せ、セレスさんのことが好きだから!」
そう言いながらマティスは顔を真っ赤に染めていく。
「…私も、好き。マティスくんが」
その手を握り返すとマティスは嬉しそうに笑ってセレスもまた笑い返した。
「あ、あと……」
「ん?」
「セレスさんは、憧れって言いましたけど…似合うと思います。セレスさんも長い髪、ロングヘアーも。」
「本当…?」
「はい!髪が短くても、長くてもセレスさんの魅力が変わるわけじゃないですが…でも、セレスさんが憧れると、望むなら…髪を伸ばしてみていいと思うんです」
「…うん、マティスくんがそう言うのなら…伸ばしてみようかな」
「楽しみにしています!」
心底そう思って言うマティスにセレスはとてつもない喜びを感じた。
「ねえ、マティスくん」
「はい?」
「私の髪が伸びたら…一緒に、お揃いの髪型…してくれる?」
「勿論です!むしろ僕から…お願いしたいくらいです!」
頬を桃色に染めて笑うマティスが綺麗で、かわいくて、そして花の香りをさせる彼自身が。彼の髪が、全てが愛おしくて。未来は幸福に満ちていると死神【だった】少女は確信でき、幸せだと泣くようにぽろりと涙を零した――。
-Fin-