振るったばかりの短剣を鞘へ収めた男は、息ひとつ乱すことなく、気配を探る。
死の訪いを待つ者は、ひとまずいない。
再びしばしの暇ができたことを察するや否や、彼は深く呼吸をし、いくらか緊張をほぐす動きを見せるが、肉体を休めながらも頭を動かし続けてしまうのは、もはやこの死の化身――タナトスの癖のようなものだった。
冥王陛下を降すことができたのならば、そろそろ地上に出て、女王陛下が長らく暮らしていたという場所に向かっている頃合いだろう。
あるいは、もう庭に辿り着いて、収穫に向けた手入れを始めているかもしれない。
幸い、今はまだ冥界へは戻っていないようだ――と続いたところで、彼はハッとして自らの思考を止める。
最近、気付けばあいつのことを考えてしまっている。そのことに気付く度に、自嘲の念が湧き上がらないわけではない。
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