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    retsuxxx

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    へし薬の初夜の小話です。

    #へし薬
    medicineForABrokenLeg

    初夜の話(へし薬)「では、い、行くぞ」
    「お、おう。どっからでも掛かってこい……」
     へし切長谷部と薬研藤四郎は、緊張の面持ちで向かい合っていた。一組の布団の上で。
     そう、手合わせの如く掛け声で始まったのは、紛うことなき彼らの初夜である。

     恋仲になって随分経つが、交わるのは今宵が初めてだった。色恋に関して無頓着な薬研と、慎重な長谷部。そもそも時間が掛かりそうなところに拍車を掛けたのが任務の忙しさだった。
     戦力が揃うまで、初期に顕現した彼らは頻繁に出陣する必要があった。寝ても覚めても戦、戦、戦。ずっと戦いの中に身を置くことは、二振にとっては間違いなく至上の幸福であったが——いや、幸福だったからこそ、自分たちの恋路などすっかりおざなりになってしまったのだ。
     今回、ほとんど暇を出すのと変わらないような使いを審神者が頼んだのも、長きに渡る貢献への労いが半分、進展しない恋模様を見兼ねたからというのが半分だ。
     単なる消耗品の買い付けに、わざわざ温泉旅館で一泊。あからさまな気遣いをされては彼らも二つ返事とはいかなかったが、主命と伝えられれば渋々折れた。案の定、あってないような用事などすぐに済んでしまい、まだ日も落ちないうちに宿帳へ名を記した。女将から勧められるまま風呂と食事を済ませると他にすることもなくなり、とうとう先延ばしにしてきた件と向かい合わざるを得なくなったというわけである。冒頭に戻る。

     ぎこちない抱擁をして唇を合わせる。それだけで心臓が飛び出しそうだった。先へ進んだら破裂するのではないか——そんな不安が胸に過る程であったが、恐ろしいかな。長谷部の本能はしっかり機能していた。ゆっくりと手順を踏みながら、行為は次の段階へ移っていく。人の営みの中に道具として長く在れば、流れや知識くらいは自然と身についていた。
     いつの間にか纏っていた浴衣が乱れていて、直に触れる素肌が心地いい。お互い、緊張もはじめよりは解れてきた。そろそろかと準備してきた潤滑油を手に取った。指と、薬研の後孔へたっぷり垂らす。
     狭いところを少しずつ緩めていきながら、触っても触られてもいない自身が痛いくらいに勃ち上がっているのを感じる。自分で欲を散らす時とは比べものにならない昂りだった。
    「長谷部、っ……はぁ……もう、そのくらいで十分じゃねえか?」
    「まだ中指一本分だぞ。悪いが、俺のものは流石にここまで粗末では無い」
    「そんな事は言ってな、ッぅ……ぁ、あ」
     挿入する指を増やすと、薬研が表情を歪めた。枕の端をぐっと掴んでいる手にも、大分力がこもっているようだ。大抵の事は素知らぬ顔で耐え抜く男がこんな風にわかりやすい反応をとるのは珍しいことだった。
    「は……っ…………ぁ、……ぅ」
    「もう少しだけ耐えてくれ」
     根気良くほぐしていれば、だんだんと深くまで指が入っていく。内側である程度曲げたり動かせるようになったところで、長谷部は指を引き抜いた。完全に柔らかくなったとは言い難いが、これが今の限界だろう。
     ずっと歯を食いしばっていた薬研が、肩で大きく息をする。同時にほろりと緩む表情に、ちり、と罪悪感が胸を焼いた。
     ここから先、更なる忍耐を強いることになる。折角和らいだ表情も、きっとまた苦痛に歪ませてしまう。今から、指よりも太く長いもので直接彼の臓腑に触れ、掻き回そうというのだから。
     それでも前に進みたい気持ちの方が大きかった。繋がりたい。今夜こそ。ここまで耐え抜いた薬研の気概と覚悟を無碍にしないためにもだ。
    「男同士の場合、後ろから交わった方が負担が少ないと聞いたことがあるが」
    「いや、正面からぶっすりいってくれ」
    「……そう言うと思っていた」
    「あんたも同意見だろ。大体、後ろか前かで入ってくるもんの大きさが変わるわけじゃないんだ。大差ないさ」
     と、薬研はあっけらかんと言って両腕をこちらへ伸ばしてきた。同じ布団の上でさえ『顔を見ながらしたい』なんて甘ったるい言葉は言えないのだ。自分たちは。
     再び覆い被さって、いよいよ滑った場所に己の茎を当てがう。ぬく、と入り込んでいくと思った通りに薬研の身体がびくりと強張った。枕の横に投げ出された、黒い手袋を付けた手が視界の端に写って、ほとんど無意識に握った。指を絡めて繋ぎ合う。
     一方、長谷部の方はと言えば、びりびりと背筋が粟立つほどの快感が込み上げていて、じっとしていても熱い息が溢れる。
    「……っ、は……狭い、な」
    「ふはっ、第一声がそれか。どうだ、気持ち良いか?」
    「……俺の方は、申し分なく」
    「っ……そりゃあ、良かった」
    「薬研はどうなんだ」
    「聞きたいか? 見りゃ、分かりそうなのに」
    「俺には、受け止める義務があるだろう」
    「相も変わらず、真面目な御仁だ。じゃ、正直に言っていいんだな?」
    「受けて立つ」
     薬研は額に脂汗を浮かべながらも、悪戯に瞳を細めた。
    「まず、どこがイイとか、そういうのはちっとも分からねえ」
    「ぐ……」
    「尻は痛いし、何より違和感が物凄い。耐え難いしんどさって言やいいか? これだったら、斬られた痛みの方がよっぽど我慢が効くな」
     予想はしていたものの、散々である。言葉の一つ一つが錆びた釘となり確実に長谷部の胸を刺していく。
    「なのにどうしてだろうな」
     ふと、声の調子が変わった。繋いでいた手が解かれる。
    「今、物凄く幸せだ」
     そう言ってくしゃりと破顔した。全身でぎゅっと長谷部に抱きついてくる。見えたのは、心から幸福そうな笑み。
     鼻がツンとして、まずい、と思ったときには遅かった。視界がぼやけ枕に雫が落ちる。薬研の側頭へ頬を押し付けて強く抱き返した。たとえ顔が見えない体勢でも察しの良い短刀が気付かないはずがないと思ったが、珍しく軽口は飛んでこなかった。

     明くる朝。隣を見れば穏やかな寝顔があった。部屋はまだ薄暗い。どちらが先に眠ったかは覚えていなかった。目的は遂げるなり、疲れてすぐ眠ってしまったようだ。反省点は上げればきりがない。失敗だらけの初夜だった。しかし、だというのに。思い返すと頬が緩んできて仕方がない。
    (次はもっとうまくやるからな)
     寝顔を眺めながら長谷部は心の中で誓った。二振がこれまでで最もぎこちない朝の挨拶をするのは、あと数分後の事だった。


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