初夜の話(へし薬)「では、い、行くぞ」
「お、おう。どっからでも掛かってこい……」
へし切長谷部と薬研藤四郎は、緊張の面持ちで向かい合っていた。一組の布団の上で。
そう、手合わせの如く掛け声で始まったのは、紛うことなき彼らの初夜である。
恋仲になって随分経つが、交わるのは今宵が初めてだった。色恋に関して無頓着な薬研と、慎重な長谷部。そもそも時間が掛かりそうなところに拍車を掛けたのが任務の忙しさだった。
戦力が揃うまで、初期に顕現した彼らは頻繁に出陣する必要があった。寝ても覚めても戦、戦、戦。ずっと戦いの中に身を置くことは、二振にとっては間違いなく至上の幸福であったが——いや、幸福だったからこそ、自分たちの恋路などすっかりおざなりになってしまったのだ。
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