リップクリーム/キラ門 目の前の尖った下唇に指を押し当てる。この男の唇は薄く、それは舌や耳と同じで、どことなく頼りない。指先に少し力を入れると湿った粘膜が見え、放すとぺこんと上唇に被さるように戻った。半刻前までは必死に吸い付いて舌を捻じ込んでいた隙間も、仮寝から覚めたばかりの頭では乾燥ばかりが妙に気に掛かる。薄皮を剥いたら痛がるだろうか。意地悪をしたいような、怒られたくないような。寝こけている呑気な顔を眺めながら唇に触れる。薄くて柔らかくて、どことなく可愛い。冴えないジジイのくせに。唇の裏に走る細い血管に微かな欲情を覚えた頃、唸るように喉を鳴らしたので指を離した。片目が薄く開いてキラウㇱの顔を捉える。
「……何してんの……」
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