「色んな花あるー」
「あいつがこの手のものに興味持つなんて意外よね」
ヒョウガとパボメスがやり合っているのをよそに、ザイカたちはパボメスが読んでいた本を手に取り眺めていた。もうパボメスのことなど眼中になく、本をめくってこの花は綺麗だとか、この花にはこんな言葉があるのか、などと賑やかに話し合っていた。
「ねーねー、ママはどんな花に喩えられたらうれしい?」
ライラの膝にもたれかかりながら、ザイカが問いかける。
「そうねぇ、やっぱりペチュニアかしら。小さい頃から大好きだもの」
ライラがページを繰ると、やがてペチュニアの紹介が載ったページが現れる。そのページを見ながらザイカはふむふむと呟いた。
「『あなたといると心が和らぐ』だってー!確かに!ママっぽい!」
「ふふ、あなたのパパもそう言ってよく私に贈ってくれたわ……懐かしい」
ザイカの頭を撫でながらどこか遠くを見つめるライラを見て、ザイカと魅朕は顔を見合わせる。
「パパはどんな人だったの?」
「そうねぇ……あの人もどちらかいうと金木犀かしら。控えめなんだけど、どこか惹きつけられる魅力があるの……」
「ほえー」
うっとりした表情のライラと、興味深そうにそれを見上げるザイカ。
二人の顔を交互に見てから、魅朕が口を開いた。
「不思議ねぇ。金木犀とペチュニアから生まれたのがキンギョソウだなんて」
次の瞬間、ザイカはがばっと起き上がった。
「ええーーーどゆ意味!?それってあたしのことなの!?」
「他に誰がいんのよ、おしゃべり」
本は今魅朕の手の中にあり、彼女はキンギョソウのページを開いて二人に見せてくる。
「口をパクパクさせてるように見えるからそう言うんですって」
「やだーーー!!何で金魚なの!?やだーーーー!!!」
「他にも出しゃばりとかお節介とか……」
「もっと優雅なのがいいーーー!!」
「あんたのどこが優雅なのよ……ぶふっ」
ツボに入ったのかそのまま蹲って笑い出す魅朕をよそに、ライラが優しく話しかける。
「例えばどんな花がいいの?」
「百合とか!」
「うーん、花言葉的には合ってなくもないけど……ザイカにはもう少し元気なお花が似合うかもしれないわね……」
そう言って今度はライラがページをぱらぱらめくりだした。
「この黄色いガーベラなんてどう?親しみやすいとか究極の美とか……ガーベラ全体で見ても、素敵な言葉がたくさん並んでるわ」
「おおーー可愛い!さっすがママ!」
魅朕とは大違い!などと得意げになっているザイカを、魅朕は特に気に障った様子もなく笑いながら見ている。
「調子いいわねぇ」
「そーゆー魅朕はあれでしょー、薔薇とかがいいんでしょー」
「ありがちねぇ。もっとあたしらしい華やかなものはないの?」
問いかけに対し、ライラはページをめくり始める。
「そうねぇ、同じバラ科なら梅とか……あ、カトレアなんかどうかしら?」
ライラが見せてきたページには、優雅で格調高い紫色の花が描かれている。
魅朕はそれをしばらく見た後、笑顔で頷いた。
「気に入ったわ!花言葉もあたしにピッタリじゃない」
しかし、同じく本を覗き込んだザイカは腑に落ちない様子で首を振る。
「『優美な貴婦人』、『成熟した大人の魅力』……スーパーにこそこそうまめんちゃんの新作を買いに行く女が貴婦人ねぇ……」
「何よ、キンギョソウは黙ってなさいよ」
「キンギョじゃないもん!ガーベラだもん!ママが選んでくれたんだもん!!」
「ふふふ」
二人のじゃれ合いを微笑ましげに眺めるライラ。その後ろからパボメスが声をかけてきた。
それから本編へ