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    rizuki_airca

    @rizuki_airca

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    rizuki_airca

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    リネンへのクリスマスプレゼント選びに悩むヒョウガと、不思議な男の出会いの話
    自己解釈もりもり

    ヒョウガは悩んでいた。広い背中を丸め、腕を組みながら、目の前にある商品棚を睨みつけている。商品棚は綺麗なデザインのアクセサリーで溢れており、一つ一つが個性的な光を放っていた。普段の彼であれば絶対に視界に入れることはないであろう品の数々。
    ヒョウガは今、来るクリスマスへ向けて恋人へのプレゼントを選ぶためにここにいた。付き合って最初に迎える一大イベントに、何を選べばいいか悩んでいた彼を見かねて、魅朕がこの店を勧めてくれたのだ。職場からほど近いところにある新しいアクセサリーショップで、若い女性の間でかなり流行っているらしい。自分用はもちろん、性別を選ばないデザインのものも多く取り扱っていることから彼氏へのプレゼントを選びに来る女性も多いとか。
    その情報通り、店内の客の割合は女性かカップルが圧倒的多数を占めていて、大柄な男一人であるヒョウガは多少どころじゃなく浮いているが、彼自身特に気にした様子はない。
    店中を見回り、話しかけてくる店員を避けながらどうにか候補を二つに絞ったものの、そこからが難しい。ヒョウガは未だに何を買うか決めきれていなかった。
    一つはペアリング。シンプルなシルバーリングに、それぞれ太陽と月が黒で刻印されている。シンプルでいかにも使いやすそうだ。それに、自分が月を、リネンが太陽をという風に、それぞれ相手の体に刻まれているものを使うというのも面白い。
    でも、ちょっと地味すぎはしないだろうか?そう思ってもう一つの候補に目を向ける。もう一つは太陽モチーフのシルバーネックレスで、中央の赤い宝石が目を引く。リネンの赤色のピアスとちょうど色が合いそうだし、何よりも自分の体に彫られた太陽を彼が身に着けているというのが気分がいい。自分がいない時でも側にいられるような気持ちになる。
    それぞれの候補を見比べて、それぞれを身に着けたリネンを想像してみる。どちらがより喜んでくれそうだろうか。
    (……どっちも嬉しそう)
    しかし、すぐに諦めた。想像の中のリネンは、どちらを贈っても同じぐらい喜んでくれたからだ。君からこんな綺麗なものをもらえて嬉しい、とアクセサリーよりも綺麗な笑顔で応えてくれている。胸に当てられた手に光る指輪、胸元できらりと光る黒と赤の太陽。いい。
    ダメだ、決められない。
    ますます眉間に皺を寄せて考え込むヒョウガは、隣に来ている人物に全く気付いていなかった。
    「悩んでるのか?」
    「!!!!」
    すぐ隣から話しかけられ、ヒョウガは思わず飛び上がってしまう。商品棚に当たらないように慌てて後退り、声の主を見る。
    全く知らない男だ。見たところ店員ではない。リネンよりも長身で、彼と同じくらい跳ねた黒髪。紺色のトレンチコートに黒いマフラーいうシンプルな出で立ちで、思慮深そうな青い目が無表情にヒョウガを見下ろしている。
    「さっきからずっとここで立ち止まってるけど……」
    「………………だ、誰」
    やっとの思いで言葉を絞り出す。これが同居人のうちの誰かだったら憎まれ口の一つでも叩いて追い払えるのに。人見知りのヒョウガには目の前の男が誰なのか問いかけるぐらいしかできない。
    聞かれた男は二、三度瞬きをし、苦笑を浮かべた。
    「ああ、驚かせてごめん。俺も実は妻へのプレゼントに迷っててさ。君もそうかなと思って」
    「………………」
    「よかったら手伝おうか?」
    「………………」
    顔も見たことがない人間からの、訳の分からない申し出。普段のヒョウガであれば無言で逃げ出すようなあり得ない話だ。
    しかし、やってみようかという気持ちに傾いているのは、この一人で延々悩む状況にケリをつけたいからか、それとも目の前の男がいかにも清潔感と安心感のある声で呼びかけてくるからか、はたまた彼の雰囲気がリネンに少し似ているからだろうか?
    気が付くと驚いたことに、ヒョウガは頷いていた。

    「ペアリングにネックレスか……」
    ヒョウガが指し示した二つを見比べ、男は考え込む仕草を見せる。
    「そういえば、人へ贈るアクセサリーにはそれぞれ意味があるって知ってるか?」
    「?」
    知らなかったヒョウガが素直に首を振ると、男は特に馬鹿にするでもなく教えてくれた。
    「例えば、ピアスやイヤリングには“いつどこにいても自分の存在を感じてほしい”という意味がある。腕時計なら“同じ時を刻みたい”、ブレスレットは太ければ太いほど、束縛の度合いが強まる、などだな」
    「………………」
    「指輪は切れ目がないことから、“永遠”という意味がある。二人の未来に対する想いを込めるなら指輪がいいだろうな。ペアリングならよりその意味が強まる。あるいは単純に、その人間が自分のものだっていうのを示すのにもいい」
    ペアリングを指す男の左手に、指輪が光っているのが見える。そういえば先程、妻へのプレゼントに迷っていると言ってたな、とヒョウガは思う。
    「ネックレスが持つ意味は主に、“束縛”とか“独占”だ。ピアスや指輪と違って、大き目だから紛失のリスクも低いし、服の下に身に着けられる分、肌身離さず愛用してもらえる。いつ何時でも自分の存在を相手に感じてもらえるアイテムってことだ。サイズで失敗することもないからプレゼントとしても選びやすいよな」
    「………………」
    「ところで、このデザインがいいと思った理由はあるのか?」
    男がヒョウガを覗き込んでくる。ここに来て、初めて男の左目の周囲に二つほくろがあるのに気付いた。
    「…………太陽」
    「うん?」
    彼の目を見ないようにしつつ、ヒョウガは切れ切れに答える。
    「僕の、太陽…………ずっと、つけてて、ほしい、から…………」
    周囲にいる女性客たちのざわめきが遠くから聞こえる。全く変わり映えしない景色の中、時が止まってしまったかのように二人の男はただ黙っていた。
    ……しばらくすると、男が低く笑うのが聞こえた。
    ヒョウガが驚いて逸らしていた視線を男に向けると、男はいかにも愉快そうに口の端を吊り上げ、目を閉じてくつくつ笑っていた。
    「っ、はは……なるほどな。分かるよその気持ち」
    ヒョウガは困惑した。この男とは間違いなく初対面のはずなのに、この強烈な既視感は一体何なのだろう?男そのものが、というより、似たような顔をする誰かを見たことがある気がするのだ。そしてそれは、自分にとって大きな意味のある誰かだった気がする。
    「どうだ?俺の話、少しは参考になったかな」
    「………………」
    聞かれて、改めて二つのアクセサリーを見下ろす。
    “永遠”を約束するシルバーリングか、それとも“独占”を意味するネックレスか。
    「………………」
    ヒョウガの手は、自然にネックレスの方へ伸びていた。

    「ありがとうございましたー」
    無事プレゼント用に包んでもらったネックレスを受け取り、ヒョウガは無言で店員に頭を下げ店を出る。
    出た先にはあの男がいて、落ち着いた笑みを浮かべてヒョウガを出迎えてくれる。
    「彼が喜んでくれるといいな」
    ヒョウガは頷きかけ、直前に言葉の違和感に気づき問いかける。
    「何、で、彼……って」
    ヒョウガは彼との会話の中で、恋人が男だとは一度も言わなかったはずだ。普通恋人へのプレゼントを選ぶと聞けば、大抵異性を連想するだろうに。
    しかし、男はただ笑って、
    「気にするなよ。まあ、君とはそのうちまた会えるだろうし、その時分かるさ」
    またな。
    そう言って、男は踵を返し人混みに紛れてしまう。
    「! 待、って」
    ヒョウガは思わず彼を引き留めようと追いかけるが、どんなに人をかき分けてももう彼の姿を見つけることは叶わなかった。

    張り詰めた空気が漂う冬空の下、男は歩いていた。
    左手にはいつの間に買ったのか、あの店のロゴが入った袋が握られている。その中には丁寧にラッピングされたプレゼントが入っていた。
    人混みから抜け出した男は、灰色の空を見上げて微笑んだ。
    「また会えるさ、いつか。……本当の姿でな」
    ふと、男のマフラーが蠢く。コートの中からにゅるりと顔を出したそれは、マフラーではなく一匹の黒い蛇だった。
    しかし、その異様な光景を目にして騒ぎ立てる者はいない。それどころか、行き交う人々はまるで彼の姿など見えていないかのようにその場を過ぎ去っていく。
    蛇の体をひと撫でした次の瞬間、男の姿は最初からなかったかのように消えてしまった。
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