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    緒々葉

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    緒々葉

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    マサトキ原稿の冒頭(ラフ)です、頑張りたい…
    大学生パラレルの不思議な話

    ##マサトキ

    拝啓 一ノ瀬トキヤ様 お元気ですか。俺は、日々〟
    (いや……さすがに堅苦しいか)
    打ったばかりの文字を、親指ひとつですべて白紙に戻す。
    〝久しぶりだな、元気にしているか? 過ごしやすい陽気になってきたな。もし都合が合えば、近々会えないだろうか。お前とどこかへ出掛け〟
    (……これでは、あからさますぎる)
    ため息をつき、やれやれと肩を竦めて首を振る。俺は、今夜も携帯電話をベッドに放ってしまった。一ノ瀬トキヤとは、高校時代のクラスメイトであり、気の合う友。他の誰よりも波長が合って、不思議な縁を感じていた。少なくとも、俺は彼が居なければ学校生活を味気なく思ってしまうところだった。そんな恩義を勝手に抱き、あまつさえ、男同士であるというのに下心さえ芽生えてしまった。当然ながら、一ノ瀬には何も告げなかった。否、告げられるわけがなかったのだ。
    そして、ありがちな話だが、俺たちは卒業と同時に疎遠になってしまった。最後の日には、また落ち着いた頃に会えるといいな、などと交わし合ったわけで、それなら俺が連絡を取ったところで可笑しなことではない。そう、可笑しくはないのだが……。目標に向かい学業に勤しんでいるところに、かつての友人が邪魔をして煩わしいと思われるのは本意ではない。などとどうしても考えすぎてしまって、何度も文面を直すごとに自信はどんどん削れていった。この邪な願いのせいで、なおさら迷路の深みに嵌った。
    離れてしまえば、彼も数多の同級生と同様に俺のことなど過去の思い出となっていくだろう。大学に上がって、早一年になろうとしている。一年目のうちは俺もなかなか新たな環境に慣れずに日々が過ぎ、ゆっくり考えることがなかったが。最近は、懐古しない日がないくらいだ。
    俺とて一ノ瀬のことが時とともに風化していたなら、ここまで苦悩していない。課題に追われていても、いくら新しい出会いがあろうと、頭の片隅には常に彼の存在が棲んでいる。俺にとってあいつに勝る者は居ないのだと痛感するたび、無性に会いたくなった。あの綺麗な瞳が、控えめな笑い声が、恋しくて……淋しい。
    この堂々巡りは日常の一部と化していた。こんなことに就寝前の時間を割いていても何にもならないというのに。
    「はぁ……」
    駄目だ。また、日を改めよう。そんな諦めを幾度繰り返しているか知れない。なんの罪もないスマートフォンをシーツから無動作に拾い上げ、するりと撫でる。そういえば、これは当時の彼と同じ機種の色違いだったな。それを知った時は人知れず口元が緩んだものだ。と、また自分で胸を締め付けてしまって、力なく項垂れた。彼はもう、きっと変えてしまっただろうけれど。
    何気なく画面をつければ、ちょうどそのタイミングで何かの通知が現れた。たまに飛んでくる広告記事か、と思ったのだが。
    『忘れられない恋、叶います』
    無機質な文字で書かれていたそれは、心を読まれたかと錯覚する宣伝文句だった。しかしながらこういうものは、往々にして良からぬ誘導であることは知っていた。それを教えてくれたのも、確か一ノ瀬だった。俺は、液晶をじっと見つめる。
    どうしてか、あっさりと無視ができない。これが怪しげなサイトに繋がっていたらどうするのだと、頭の中では警戒している。ただ、不思議と悪い感覚はしなかった。それどころか、妙に惹かれて、焚き付けられてしまう。なるほど俺のような人間が狙いというわけか、と、半ば投げやりな気分だった俺は誘いに乗ってやろうと画面をタップした。端から期待などしていないが、どくんどくんと動悸が激しくなる。通信を待つ僅かな間のあと、映し出されたページは。
    「…………」
    思わず失笑してしまった。
    真っ白な背景に、簡素な字体でエラーと表示されていたのだ。あれほど見事に弱い部分を引っ張っておいて、結局こんなものか。いっそのこと完全な悪質サイトに繋がっていればきっぱりと切り替えられそうに思えたのに。よりによって一番煮え切らない結果をもたらされ、俺は重く息を吐く。不毛な落胆と安堵が混ざった悶々とした心地になりながら、無造作に布団を掴み寝床に潜った。

    ――

    霞の向こうから音が聞こえる。
    朝か……? いや、しかしいつものアラームとは違う音だ。というより、誰かの声……。
    「……ん」
    喉を鳴らし、寝ぼけたまま無意識のうちにスマホを手に取る。
    『――……ません』
    うっすらと瞼を上げれば、今度ははっきりと手元から人の声がして俺は一気に目を剥いた。まさか、知らぬ間に電話を掛けてしまったのだろうか。ぼんやりとした視界も完璧に明るくなる。焦りで携帯を取り落としかけながら画面のロックを開いた。
    そこに映し出された光景に、目を疑わざるを得なかった。俺が想像していたのは、いつもの見慣れた風景画か、誤操作した通話アプリ。しかし、そのどれでもなく……そもそも、この携帯電話で見られるはずもない姿だった。
    「……い、ち」
    『え、……聖川さん?』
    こんなことを言っても信じられないかもしれないが、俺が一番信じられないのだから仕方ない。俺の手元には、驚いた顔でこちらを見つめる、他でもない想い人がいたのだ。
    絶句したまま全身を固めてしまった俺は、寝起きの頭で懸命に状況を把握しようとしていた。液晶の向こう、どこかの床に座り込んだ彼は、俺と同様に驚愕を隠せないでいる。それは静止画でなく、確かに動いていた。テレビ電話……などできる相手では当然なかった。
    幻覚……ああ、なるほど。これは夢か。
    「……はは」
    思わず、喉奥から渇いた笑いを漏らした。とうとうこのような夢を見てしまうとは、俺も相当参っているらしい。
    『聖川さん、これはいったいどういう』
    困惑に満ちた音声がスピーカーから流れてくる。
    「一ノ瀬、すまない。俺の夢に巻き込んでしまったのだろう」
    完全なる現実逃避の意識で述べ、薄く笑ってみる。しかしながら、相手はきょろきょろと周囲の壁を確認してから眉を下げた。
    『私も信じられないのですが……残念ながら、現実のようで。ここの出方も分からなくて』
    そう語る一ノ瀬は、心から困っているようだった。その様子から、きっと俺が見つける前にも試行錯誤していたのだと察せられた。これは、観念するしかないのか。
    一切の理解もできない状態ではあるが、いつまでもふたりで慌てていても仕方がない。今日は平日で、午前中から講義が入っている。非常事態だからといって、そうそう休むわけにはいかない。ひとまず、早いうちに互いの現状を共有しておくべきだろう。
    『聖川さん。とりあえず、整理しましょう』
    「ああ、俺もそう思っていた」
    この、見えない電波で脳内を共有しているかのように軽やかな意思疎通。そう、紛うことなき彼としか味わえない感覚。密かに懐かしさを噛み締めながら、スマートフォンを持ち直す。
    『目が覚めたと思ったら、白い壁に囲まれた狭い部屋に寝転がっていて。唯一ある大きな窓から、誰かの姿が見えたんです。呼び掛けていたら、それが聖川さんで』
    「なるほど……、摩訶不思議としか言いようがないな
    その非現実さを改めて感じた俺は、空いている手で自らの頬を思い切りつまんでいた。
    「……やはり痛い」
    ぼそりと小さく呟くと、手の内から息を漏らす音がした。
    『ふ、ふふ。本当に頬をつねって確かめる人を初めて見ました』
    「…………」
    不覚にも、目頭が潤む。理由は言わずもがな、彼の笑顔だ。
    『どうかしましたか?』
    俺が不自然に顔を背けたからか、一ノ瀬がこじんまりとした空間の中でこちらを怪訝そうに見上げた。
    「いや……本物の一ノ瀬なのだと実感してな」
    『それ以外に誰がいるんです』
    くすくすと可笑しそうに応じる相手は、疑う余地のない、俺の焦がれた一ノ瀬トキヤだった。夢幻かと勘ぐってしまうが、俺は紛れもなく彼と再び会うことが叶っている。
    『ちなみにそちらは、私がスマホに映っている感じでしょうか』
    「うむ……。画面の奥に……壁紙のような映り方だな。動画でもなく、テレビ電話が繋がっているわけでもなさそうだ。こうして会話ができるということは、何かしらの非科学的な現象とする以外にないな……」
    『そうですね……』
    俺が顎に手を添えていると、一ノ瀬は似たような格好で頭を捻っていた。不謹慎とは思うが、同調する仕草までも相変わらずで胸が躍ってしまう。
    「何故私があなたの画面に繋がる部屋に閉じ込められているのか、全く心当たりがありませんね……。聖川さん、昨日までに何か気になる点はありませんでしたか」
    「ん……そう言われても、特段変わったことは……。あ、」
    問われるままに就寝前の記憶を遡ると、つい余計なことを思い出してしまった。あれは、軽々しく話せるものではない。彼には最も知られたくないことだ。
    「何か?」
    「……い、いや、間違えて変な通知を開いてしまったことはあったが、何も起こらなかったから関係ないな」
    背中に不快な汗が噴き出すのを感じながら、平然を装って当たり障りのない返答を伝える。
    「そうですか」
    一ノ瀬は案外すんなりと引いていったので、俺はこっそりと胸を撫で下ろす。安堵したままに、それとなく話題を返してやった。
    「お前の方はどうだ? 昨夜は自室で寝たのか」
    「私ですか。もちろん……夜は自宅にいて、……?」
    彼は自身を振り返って語り始めたものの、すぐに言い淀む。それきり黙り込んでしまい、難しい顔で首を傾げていた。
    「どうした」
    今度は俺が怪訝な声を投げる番だった。
    「……その、講義を終えて帰ろうとした記憶はあるんですが……その後帰り着いたのかも、何をしていたのかも、頭がもやもやとして思い出せなくて」
    その語り口は、本心から悩ましそうにしていた。俺のようにはぐらかしているわけではない。微かな後ろめたさが掠めたが、あれがきっかけであったとしても、起因や仕組みが謎めいていることに違いはない。今はこれ以上、解決の見込みはなさそうだ。
    「……そうか、いずれにしても元に戻れるまではこのまま過ごすしかあるまい。一ノ瀬には窮屈な思いをさせることになるが……」
    『ああ、いえ……私こそあなたのスマホを煩わしくさせてしまってすみません』
    彼の萎縮した言葉をそっと宥め、ひとこと断りを入れると画面をそっと閉じた。煩わしいわけがない。それどころか、お前にとっては不愉快であろう背徳さえ覚えている。などと、もちろん言えるはずもなかった……。
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