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    割とドレッシングになってる水と油の事後の朝の話。
    多分あと50年くらいしたら素直に言える気もする。

    #雷コウ
    ##ハンセム

    言葉を飲み込んで今日も眠る(雷コウ) 初夏の太陽が昇りきる前の白さ。そんな光が閉め損ねたカーテンから零れる早朝。自然と開けられた瞼はやたらと軽かった。いつもなら瞼と体はだけは重いというのにそれ以上意識を落とすことは許されない、そんな重たいばかりの朝を迎えるというのに今日は違う。きちんと大多数の人々が目覚める時間帯まで眠れたばかりかおまけに気分もいい。
     隣で寝ていた男を起こさぬようにコウはゆっくりとベッドから抜け出す。半端に空いていたカーテンを全開にして光を取り込んだ。明るい光が部屋中を充満してもベッドの中の男はすやすやと起きる気配もない。元々朝に弱い男だ。
     年下の癖に背が高くて、体格も良くて、好戦的で、それから肉食獣のような男である。平素腹立たしいことばかりの男ではあるが、眠っているのを見るのは目の前で腹を出して眠る野生の獣を見ているようで非常に愉快だ。
     透けるような日の光が男の髪の毛を照らす。きらきらと輝くたてがみは光を反射して酷く眩しい。
     どこかむず痒いような感情を抱えながら、興味の向くままにベッドに腰掛けてその髪を、頭を撫でた。
     自分のものとは違う硬質の髪は手触りが新鮮だ。丸い頭を丸く撫でて、つむじを見下ろす。自分よりも背の高い男のつむじを見下ろすのは悪い気分ではなくて自然と鼻歌が漏れた。
     ん、と鼻にかかるような声。男が布団にくるまったままもぞりと動く。うっすらと開けられた瞳と目が合って、いたずらがばれてしまった時のような気持ちで撫でていた手を引っ込めた。
     半分以上開けられていない男の瞳は、それでもどこか不機嫌を覗かせている。
     ――まぁ、そうだろう。
     平素よりこちらの事が気に入らないと公言している、そんな気に食わない男に頭を撫でられていたなど不愉快にもほどがあるだろう。
    「悪い」
     素直に謝罪をしてベッドを離れる。うんともすんとも返事をしない男を振り返ってみればすでにもう夢の中へと引き返したところだった。

    ***

     どこか甘い声で音の外れた歌が聞こえる。何かが頭を撫でていてそれが酷く心地よい。このまま瞳を閉じていたい気持ちもあったけれど、それ以上にそのあたたかな手の持ち主を雷我は知りたかった。
     気合を入れなければ開けられない瞼を必死で持ち上げていく。処理できないほどの光の洪水。その向こうに見えたのは青と緑のオッドアイ。
     視線があった瞬間に柔らかな掌が頭から離れた。
     ――気持ちよかったのに。
     止まってしまった歌声と離れてしまった体温。玩具を取り上げられた子供のような感情だ。酷く腹立たしい。
     もっと、という言葉は脳内だけでしか紡げなかった。まだ目覚め切らない体はうまく喉を震わせることができなかったし、何よりもそうやって駄々をこねるのは恥ずかしい。
    「悪い」
     男が短く謝罪の言葉を告げて自分のもとから去っていく。「行くな」も「撫でて」も「歌って」もどれも自分の性格上言えないことは誰よりも自分自身がわかっていた。
     瞼が酷く重い。
     身動きしなければ、瞳を開けさえしなければあの気持ちの良い時間がもっと続いていたのだろうか。ならば興味本位で目覚めなければ良かった。夢と現をうろうろしながらじっと眠っていれば良かったのに。
     撫でている掌が誰のものかだなんてわかりきっていたのに、顔が見たいなどと欲を出したからこうなったのだ。
     腹立たしい、そんな感情を他ならぬ自分自身に抱えながら雷我はもう一度眠りについた、そんな朝の話。
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