たいやき「あ、やべ玄関」
「ぬ?」
年季の入ったストーブが動いてはいるが何処からかやってくるすきま風で部屋はひんやりとしている。汗ばんだ肌が冷えないようにくっつき合ったまま布団にくるまっていた。お互いの四肢の先まで余すところなく触れ合った身体はおよそ清潔とは言い難くとも、このまま抱き合って眠ることが何より心地良いのだと知っているから掛け布団の下で身を寄せ合う。
「玄関?」
突として聞こえてきた言葉に眉間のしわがよる。疑問符をつけて単語を反復すると後悔の色濃い唸り声が布団を通り抜けて部屋に響いた。
「どーした」
「さむっ」
大きな身体がすこし向きを変えると新しい空気がふたりの間に入りこんだ。続けてぱさりと布団がめくられて黒髪と顰めた顔が覗く。人肌の熱れが去った布団にすがるように動いた手をすかさず捕まえた掌はじんわりと温かい。
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