壇上に立ったフリスクはマイクを少し調整した後、手にしていた原稿用紙をチラリと見て、そしてそれを小さく畳んでしまった。
　白いパンツスーツ姿のフリスクは、もともと細身で小柄だというのに、大勢の人間達に囲まれ、広い壇上でますますちっぽけに見える。
　深呼吸をして唇を引き結び、聴衆の中の一点をまっすぐに見つめ、
　そして明確に、誰かに向けて微笑んだ。
「…まず、少し砕けた言葉を使うことをお許しください。ご覧のとおりわたしは子供…ガキンチョで、これからお話することはわたしの友人たちについてのことです。
いま、世界中の人間の皆さんはとても戸惑っているのではないかと思います。
姿形が違い、文化も違う。突然押し寄せた隣人を愛せよと言われても困る。そうだと思います。
わたしがいくら彼らを良く言ったところで、実際に関わりを持った人たちの中にはギャップを感じた方も多いのではないでしょうか。共感と思いやりで出来た、愛すべき隣人であるはずのモンスターたちですが、そうですね…自慢ばかりで嫌なヤツもいます。消極的で暗いヤツも、寒いジョークを連発する空気読めないヤツも。
犯罪だってゼロじゃない。良いヤツもいれば、悪いヤツもいる。
でもそれって、人間もモンスターも同じです。
いるでしょ？合わないなって人。なんとか距離を取ったり、喧嘩したりしながら過ごしていますよね。同じ事です。
モンスターだからと嫌うのではなく、出来れば気に食わないところは本人に言ってあげてください。何せ彼ら地上の生活は久しぶりなんです。もしかしたら文化の違いで戸惑っているだけかも知れないし…ほんとに性格が悪いってこともあるかも知れませんが。
あとこれはモンスターの皆さんに言いたい事。人間に向かって魔法の弾を撃つのはやめてください。人間が普通に魔法を使えた時代は遥か昔なんです。自分達のやり方が今の時代の人間には合ってないかも？の疑問をちょっとは持つようにしてください。当たると普通に痛いし怪我するから。
言葉や文字がとても大きな力を持ちます。お祝い事はカードに書いて！大事な人には大事だと言葉で伝えてください。あなたたちが素敵だってことは良く知ってます。上手くいくように手伝うし、一緒に考えるから。
わたしは…僕は、今まで生きてきた時間の多くを旅に費やしてきました。一緒に旅をしていた義父は亡くなりましたが、教えてもらったことは僕の中に生きています。
義父は「安心できる場所を見つけたら、そこに根を下ろして人と助け合って暮らしなさい」と僕に教えました。僕は、僕の大好きなひとたちがいる場所を旅の終わりに定めました。
ここで友達を作り、家族を作り、助け合って生きていく。苦しい思い出を一旦端に寄せて、目の前の幸せを少しずつ積み重ねていく。
僕たちは一緒に居ることが出来る。友達になれるし、競い合うライバルにも、恋人や家族にだってなれる」
　また深呼吸をする。最後の方は目に見えて手が震えていた。当たり前だ。この先起こることを知っているのだから。
　サンズはフリスクが見る一点を注視した。あまりに多くの人がひしめいていて、おかしな動きをする人間がいないかと目を凝らしても特定することは出来ない。
　ぎり、と奥歯を噛み締めた。地下世界で何度もそうしてきたのだろうに、今この時、傍観を貫くのはとても難しいと感じた。
　フリスクを信じると約束したのだ。ここから何が起きようと、手出しをすることはできない。
「そう信じています。最後まで聞いてくれて、ありがとう」
　銃声は、鳴らなかった。