してしまってから、フリスクは呆然としていた。サンズが面食らうのはわかる。けれどこの場合は、
「お前な、自分からしておいて…」
「いやっ、ごめん、そ、そうだよね」
フリスクは思わず自身の口元を手で覆う。全く制御をしようとする気すら起きなかった。全ては一瞬の出来事だったのだ。
サンズがフリスクの隣で「水も飲みなよ」とそう言っただけだ。さっきからペースが早いと度々注意されていて、いい加減見かねてといった風情だった。
側から見れば危なっかしい飲み方に違いないのに、そのとたんフリスクの中に弾けたのはちょっとした反発心だった。
サンズを驚かせてやりたいと思ったとたん、気がついたらサンズの硬い頰に指を添わせ、いつもニンマリと笑うその歯列に唇を触れさせていた。
目の前のテーブルには先ほどスーパーで買ったクラッカーがある。雑にスプーンが突っ込まれたハーブ入りのチーズと、値段なりの味のワイン。ワインの前はベリー系の果物のリキュールを炭酸で割って飲んでいたはず。今は何杯目だったか?理由を求めるようにこちらを見るサンズの視線から逃げるように、思考があちこちを飛び回る。
「あの、好きで…ごめん、ほんとに、サンズのことずっと前から」
「は?」
酔いの回った口が勝手にキスの理由を打ち明けた。