心残り朝焼けに眩んで伏せた君の横顔を見つめる。ふわり柔らかく揺れた髪をその細い指先が遮るように掬った。
「…おはよう」
少しはにかみながら言う君に笑みで返す。
愛しさが溢れる。他の誰にも譲りたくなどないのに、忌々しくも右手のそれは主張をやめない。
嗚呼…これは俺のなのだと叫びだしたい衝動を抑えながら、表面には凪いだ湖面のような表情を必死に張り付けた。
何故、と何度も自問した。
この心清らかな少年を他でもない何で自分が拒まなければならないのか──
滲む視界の向こうで君は不思議そうにこちらを見つめている。
「大丈夫?」
「…何でもないよ」
今夜ここを発つことを、俺はいつまでも言えないでいる。
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