Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    hariyama_jigoku

    リス限はプロフ参照。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 51

    hariyama_jigoku

    ☆quiet follow

    グラデカ小説。「毒でもいいから頂戴」

    ##メギド

    .

     らしくもなく、若干の緊張に似た感情を伴ってデカラビアは扉の前で息を吐く。忌々しい労役と称したサンタとしての奉仕活動という辱めもとうに終わり、年も明けた。だが、冬の気配は一向に去る様子がない。
     廊下を漂う冷気に馴染んだ手で、少々乱暴に扉を叩く。まだ昼を過ぎて少し経った頃合いだったが、その日は一際寒い日だった。本日の労役として課された幻獣の討伐は、朝から駆り出されたにも関わらず早々に片がついた。帰還の際に、この部屋の主がいると聞いて訪ねてきたのだが姿をちゃんと見たわけではない。無駄足にならなければいいが、と手を擦り合わせた。
    すぐに扉が開かれて、中から少し驚いた様子の顔が覗く。
    「誰かと思ったらデカラビアか、珍しいなお前が用なんて」
     部屋の主であるグラシャラボラスがデカラビアの姿を見とめて、僅かに目を細めた。
    「まあ、中入るか?」
     元よりデカラビアも立ち話で済ませるつもりはなかった。あぁ、と浅く頷くと、中に通される。
    「ついさっき戻ってきたばっかりだからよ。廊下とあんま変わんねー寒さだけど、勘弁な」
     そう言って荷物から投げ寄越されたのは、薄手の毛布だ。余計なお世話だと跳ね除けるには、部屋の冷たさが勝った。指し示された椅子に渋々と腰掛けて、毛布を羽織る。ふっと漂う整髪剤の混ざったにおいに、つい顔を顰めた。正確に言えば、そのにおいが誰のものなのか―――それを認識した瞬間にデカラビアを襲った心臓を締め付けるような痛み。それに対しての不快感であるが。
    「またか」
     荷物を広げ終わったのか、グラシャラボラスがベッドに腰を下ろした。その様子から、デカラビアの言葉は耳には届かなかったらしい。
    「それで? 何の用なんだ」
     ゆるりと首を傾ける呑気な顔に、デカラビアは剣呑な眼差しを向ける。デカラビアは同年代と比べれば些か童顔に見られる節があるのだが、それでも元来の目つきの悪さ故か無表情でいるだけでも威圧感を与えることが多かった。だがそんなデカラビアの表情にも、グラシャラボラスは気圧された様子も見せない。それにすら苛立ちを募らせ、デカラビアは逡巡の後に口を開いた。
    「グラシャラボラス。お前は、俺に何をした?」

     心臓は、鼓動を打っている。常よりも格段に速く。そして時折訪れる、締め付けるような痛み。それが、デカラビアの悩みの種であった。
     医療班に診療を頼んでも、体は健康体そのもの。リジェネレイトの余波かもしれないと言われても、他のメギドからは似たような話も聞いてはいない。どうにか仔細を問い質そうとする一部メギドからの追求から逃れるのには、一苦労だった。
    デカラビアの体には何の問題もない。ならば疑わしいのは外的要因である。デカラビアが一番に思い浮かべるのは、知識にも明るい毒だ。
     ここ最近は己の食事周りにも注意を払い、過度に他人の手が触れぬよう、それが難しい場合には同じものを食べる他者にも気を配っていた。だが、同じような症状があるというメギドは見当たらなかった。
     監視をされているということは勿論、デカラビアが勝手な行動を取れないということでもあるがそれは対象に対しても同じことである。常に監視の目がある以上、デカラビアに対しても危害を加えられないということだ。具体的な方法、使われた毒は思い当たらなかったが、経口摂取でもなく監視を多く引き受けているという点では該当者は一人しかいない。

    「何が?」
     虚を突かれたような表情と共に、グラシャラボラスは首を捻った。その気の抜けた返事にため息をつき、デカラビアは大仰に腕を組む。これは本当に覚えがないのかもしれないと、的外れの予感に肩を落としながらも口を開いた。
    「最近俺の体の調子がおかしい」
    「なんだ、風邪でも引いたのかよ」
     グラシャラボラスが訝しげな顔をするが、それに首を横に振る。
    「医療班も訪ねたが、特に異常はなかった」
    「じゃあどこが悪いんだ?」
     問いに答えるように、そっと拳を緩く握って胸を叩いて見せた。
    「心臓が痛むことがある。ふいに動悸がする。あとは、名状しがたい胸の不快感、というべきか」
    「なるほどな。でもよ、なんでそれが俺がお前に何かしたって話になるんだ」
     指先で頬を掻くグラシャラボラスに、デカラビアはふんと鼻を鳴らす。
    「正確性には欠けるが、俺の覚えている限り今言った症状はお前がいる時に起こることが多い。心臓の痛みに関しては、特にそうだ」
     そう告げると、グラシャラボラスが一瞬目を見開いた。下手に本人の述懐を聞くよりは、反応や表情を見ていた方が余程情報を得られるかもしれないとその様子を見据える。が、すぐにグラシャラボラスは思案するように顎を撫ぜた。
    「お前、それさあ…」
     少しして何か言いたげな視線が返される。その続きを待ってデカラビアは黙していたが、態度とは裏腹に喉を詰まらせる何かがあるのか中々グラシャラボラスは口を開かなかった。
    「やはりお前の仕業か。恨んでいないと言っていたようだが、こんな嫌がらせをする程だったとはな」
     答えを待ちきれずに、デカラビアが急かすような口調で肩を竦める。するとそれを否定するように、ひらひらとグラシャラボラスが手を振った。
    「ちげえって。俺は何もしてねえし、恨んでないのも嘘じゃねえ」
     ただなあ、と付け加えたその顔は、困惑一色といった様子である。どうするべきか口にすることを決めあぐねているのか、見ただけで分かった。
    「まどろっこしい。何を迷っているのか知らないが、心当たりがあるならさっさと言え」
     らしくない渋りように、訳の分からない心地にさせられる。少々の時間のあと、伺うような視線でまじまじと見つめられ、やっと唸り声ではない言葉が吐き出された。
    「違ったら殴ってもいいけどよお」
     妙な切り口で始まった言葉に、意識を集中させる。
    「それだとまるで、お前が俺のこと好きだってそんな風に聞こえるんだけどよ」

     返す言葉を失った。
     続いて、頭が強く揺さぶられるような感覚がした。それこそ、殴られたような衝撃である。
     デカラビア自身に覚えはないが、恋慕と分類される好意の存在やそれに対する俗説なら理解している。異性に対して抱くもの、相手の関心を買うためなら何をするにも厭わないヴィータがいること、繁殖のための性欲の理由付け。物語で繰り返し描かれたもの、相手のことを考えるだけで幸福或いは辛苦を味わうもの、時として病にさえ例えられるもの。
     異性ではないという相違は、その瞬間のデカラビアにはあまり重要には思えなかった。ただ漠然と、自分はそうなのだろうなという得心だけが胸中に落ちてくる。それは、ここ最近正体を掴みかねていた己の異常に、思いの外すとんと嵌まってしまった。
     グラシャラボラスに好意を抱いているか、否か。その問いを反芻し、優秀なデカラビアの頭はただ事実と仮説を組み上げていく。

    「マジか」
     結果として、デカラビアの頭は茹った。瞬く間に顔中を朱に染めるデカラビアを見て、グラシャラボラスが目を見開く。
     思わずというように手が伸ばされて、乱雑な手付きでデカラビアの頬を撫でた。その仕草にも声色にも、拒絶や忌避が見受けられずに心臓が疼きを覚える。じりじりと痺れのようなものを訴える手を持ち上げて、グラシャラボラスの手に重ねた。ぴくりと、動揺が一瞬伝わってきたがそれだけだった。振り払われない。
     とても、熱かった。冷えたデカラビアの手には、燃えるような温度に感じられる。
     早く冬が終わればいい。そうすればこの忌々しいほどの体温の違いを、まざまざと意識する必要もなくなるだろう。ただ、分け与えられる熱を離すことは少し惜しい。
    「だとしたら、笑うか」
     吐息のような音を、グラシャラボラスは確かに拾い上げる。答えの代わりに、重ねるばかりだった手を包み込むように握られた。
     視界がちかちかするような錯覚も、早鐘を打つ心臓も、今は然程不快ではなかった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💞💞💞💞🙏🙏🙏😭👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏💕☺💕💕💕💯😭😭😭😭😭💒💖😭💖💖👏👏❤❤❤㊗㊗㊗💒💗💗💗👏💯☕💖💞😭😭😭😍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    hariyama_jigoku

    DONE鋭百小説(鋭百々)。付き合ってていちゃついてる二人。互いの無意識の話。
    侵食 ちゅ、ちゅ、とリップ音が鼓膜を舐めるように繰り返される。くらくらと、その度に指先から全身に火が点っていくようだった。無意識に腰が引けるが、腰に回された腕が程よくそれを妨げている。
     眉見の肩に手を置くと、それを合図と思ったのか殊更ゆっくり唇が合わせられた後に緩慢に離された。吐息が濡れた皮膚に当たって、妙に気恥ずかしい。口と口をくっつけていただけなのに、なんて女の子みたいなことは言わないが、一体それだけのことにどれだけ没頭していただろう。腕がするりと離れ、柔らかなベッドに手を置いて体重をかける。
     勉強会という名目だった。元より学生の多い事務所では、勉強会がよく開かれている。C.FIRSTは専ら教え役だったが、S.E.Mなど加われば話は別だ。いつしか習慣と化したそれは、ユニットの中でも緩慢に続いている。事務所に行くだけの時間がない時。例えば定期テスト中―――下手に行けばつい勉強が手に付かなくなってしまう―――とかは、互いに課題を持ち寄って百々人は秀の、眉見は百々人の問題を見る。最初は二人が眉見に遠慮したものの、受験の準備になるからと押し切られる形になった。今日もそうなる予定だったが、秀が生徒会の仕事で欠席することを知ったのがつい一時間ほど前である。今日はやめておくかと聞こうとした百々人に、眉見が自分の家に来ないかと持ち掛けて今に至る。いつもは何かと都合の良い百々人の家だったのだが、一人で来るのは―――それこそ二人が付き合い始めてから来るのは初めてだった。
    1834

    recommended works