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    戌丸アット@94

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    戌丸アット@94

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    #ナギカン

    斬れないほどキレイな汚れなき人どうして話したか忘れたが、自分の生まれた日なんてものに興味がない。と言ったら対面に居たカンタロウが喉を詰まらせた。
    何がいけなかったんだ。
    きっと目の前のカンタロウが喋りながら昼飯のオニギリなんか食べるからだ。
    いや、人が目の前にいるのに無断で食うな。

    「そんなっ!お誕生日会とかしてこなかったのでありますか?」
    「あるか、そんなもん」

    そもそも、祝う余裕なんて無かった。とは言えないので適当に頷く。
    と言うか勝手に人の隣で昼飯を食べるな。いや、違う。
    いつの間に隣に来たんだ。

    「なら良ければ吸対でちょっとしたお誕生日会するので来ませんか?」
    「誰が行くか!馬鹿!!!」
    「えーん!そんな事を言わずー!折角ですから皆で楽しく…あ!?もしや他の退治人の方と年越しでありますか?」

    年末年始は吸血鬼も活動的でありますから、いつでも出動できるようにギルドで集まっていると教えて頂きました!
    などと一人納得しながら、お握りを放り込んで頬を膨らませながら食事をしているカンタロウに、ナギリは苛立ちが自分の頭を占めていくのが分かる。
    退治人と吸対の年末年始の情報が分かるのは良いが結局、辻斬りするには向いてなさそうだ。

    「違う!しない!馬鹿!」
    「え!じゃあじゃあ!年越しの際に辻田さんの所へ立ち寄っても構いませんか?」
    「なんでそうなるんだ!?来るな!!!大体なんでそんなピンポイントなタイミングなんだ!」
    「それは勿論!年末年始は必ず暴れ出す吸血鬼の方たちへの対応に追われるからでありまぁぁぁす!多分、今年も大騒ぎになるでしょうから誕生日をお祝いして頂ける気持ちだけでも嬉しいものです!」
    「仕事し、ろ……あ?おい、待て、さっきから誕生会を連呼してるが誰の誕生日会だ?」

    辻斬りを行っていた身としては確かにイベントがあったりすれば騒がしく悲鳴を上げられても、意外と目立ちにくいので騒ぐ他の吸血鬼の気持ちも分からなくはないので困る。
    だが流石のナギリでも先程からカンタロウが誕生日をひとまとめにしたような言い方はしていて、それが普通じゃないことくらい分かる。

    「年の終わりに本官の誕生日、そして元旦にヒヨシ隊長のお誕生日があるのであります!」
    「お前、夏生まれじゃないのか!?!!?」
    「え?は、はい!辻田さんも夏生まれだと思っていたでありますか!うーん、皆さん口を揃えて驚かれるのですが何故でしょう?」
    「寧ろ、なんでお前は不思議そうなんだ!」

    ご馳走様であります!と力強く手を合わせて昼ごはんを完食したらしいカンタロウに、早くどっかに居なくなってくれ!と叶いもしない事を考えながら、ナギリはそっぽを向く。
    無視してしまえ、こんな奴。

    「それよりも辻田さん!きっと年越しの際も大変な騒ぎになりそうですし、せめて少しでもご一緒に居させて欲しいでありまぁぁす!!!」
    「知るか!と言うか誕生会か?それをするなら来るな!」
    「それは多分、緊急の呼び出しなどで、まともに出来ないと思いますので!」
    「お前もう仕事する気が無いだろ!!?」

    コイツ本当に警官なのか?と思うし、辻斬りをしている身と言う事を差し引いても自分が指摘していることは変ではないとナギリは自負している。
    そしてナギリの自負は正しいだろう。
    しかしナギリの予想を上回る程、カンタロウと言う男は我慢する、と言うブレーキがぶっ壊れているらしい。

    「だって本官、警官になった事を悔やんだことはありませんが警官の時も吸対に所属してからも誕生日どころか年越しもまともにお祝いしたこと無いのでありますもんっ!!!」
    「だから……いや、その、泣くな!急に!どんな情緒してるんだ!」

    犯罪に年末年始、冠婚葬祭はないので仕方がない事ではありますが!と正義感溢れたように熱弁しているがカンタロウのポーズはいわゆる祈りを捧げたようなポーズをしており。
    言い方を良くしたところで明らかにカンタロウは絶望した人のポーズをしていたし、静かに涙を流している。
    いつもの騒がしさはどうした、お前。
    でも、だからといって。

    「尚更、俺の所に来て、どうするんだ?…俺はお前の誕生日も年越しなんぞも祝う気は無い」
    「それは」
    「お前は一体、仕事の最中に何しに俺のところへ来るつもりなんだ?お前…は…」

    お前は俺と両方を祝いたいのか?と聞くのが怖い。
    はいそうです!と間髪をいれずに答えそうで怖い、と思いたいが何処か怖い理由が違うと言う自覚はある。
    もし、違っていたら、どういう言葉をカンタロウに対して自分が言うのかが怖い。
    なんでこんなに自分は悩んでいるんだ?と苛立ち始めたナギリであったが幸か不幸か。
    ナギリの思考を奪い去るのは、いつもカンタロウの一言だった。

    「辻田さん、ご安心下さい!お祝いして頂けるなら勿論、嬉しいでありますがお願いしたい事は別にあるのであります!」
    「なんだと?」
    「本官は当日も辻斬り捜査の為にパトロールをしたいのでありますが誕生日だからこそ是非、ご協力願いたいのであります!」
    「は?お前、年越しで誕生日なのに辻斬り捜査するのか?」
    「当然であります!寧ろ仕事をするならば辻斬り捜査もしなくては折角、誕生日まで出勤している意味がありません!」

    ですので、どうか辻田さんの貴重なご意見も欲しいのでありまぁぁぁす!とお最早、手を合わせて懇願しているポーズしかしてないのに、お願いでありまぁぁぁす!とナギリには聞こえてきそうでキレそうだ。
    そう、いつもならキレていた。

    「ふん、その心意気は悪くない」
    「え?なら辻田さん当日、お付き合い頂けるのでありますか!?」
    「え?あ、違う!おい待て!目を輝かせるな!聞け!!!」
    「いいえ!!!聞きません!!!」
    「お前、実は人の話を、わざと無視してるだろ!?!!?」

    かくしてワァワァ!とあーでもない、こーでもないと言い合いながらもカンタロウは楽しそうに笑って。

    「辻田さん、有難うございます!」

    とあまりにも嬉しそうにカンタロウが笑うので。
    ナギリは、今日ほどパイルバンカーと防刃服で武装しているカンタロウが憎らしくて堪らなかった。
    多分。
    今すぐ斬ってやったら、その顔も、その服も、美味しそうな赤に染まるに決まってるのに。

    End
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