アーチャーは、ランサーが好きだった。
「……お前は、本当に」
呆れたように言うランサーに、アーチャーは肩をすくめてみせた。
「どうやらそのようだ。しかし、君も大概だな。こんな男と一緒にいたいだなんて、どうかしているぞ?」
「うるせえよ」
そう言って、ランサーが笑う。
それは、先ほどまでのどこか皮肉げで自嘲の混じった笑みではなくて、本当に心の底から楽しそうな笑顔だった。
「…………」
そんな彼の表情を見て―――唐突に、アーチャーは自分の中の何かが満たされていくような気がした。
聖杯戦争の最中だというのに、マスターとサーヴァントとしての信頼関係を築くどころか、互いに背中を預け合うことさえ拒否してきたというのに、それでもなお、この男は自分を信頼してくれているのかと思う。
それが嬉しくないわけがない。
「ああ、まったく……君の考えていることは分からんな」
苦い笑いを浮かべながらそう告げたあとで、彼はほんの少しだけ気合いを入れるために自らの頬を叩き、そして言った。
「行こうか、ランサー」
「おう!」
応える声とともに、赤い槍を持つ腕が前へと突き出される。
その瞬間、再び大気を震わせるほどの衝撃音が鳴り響き、目の前にあった扉が吹き飛んだ。
「―――行くぜッ!!」
叫びとともに、二人の戦士が廊下に出る。