バスルームの湧昇その日は日暮れから雨が降り続いていた。
この国にしては珍しい長雨でスメールシティの人々は手近な屋根の下に集いつつ、思い思いに時間を過ごしている。
アアル村帰りのカーヴェは水を吸ったシャツが肌に張り付く不快感に耐えながら、便宜上「自宅」と呼ぶ家屋の鍵を回した。家主の居ないリビングには明かり取りの窓に叩き付ける雨音だけが響いている。
水気で重くなった外套をそこらに引っ掛け、浴室へ直行する。足元の砂はすでに雨が洗い流していたが、冷えた身体が限界を迎える前に汚れを落として温まらなければ。
濡れた服を剥ぎ取るようにして浴室の扉をくぐった時、わずかな違和感がカーヴェを捉えた。
淡い光、それに立ち上る湯気。
誰か、居る。
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