さよなら、白薔薇 それは、薔薇の棘のように深々と突き刺さった。
幼い幼い、無垢でうつくしい約束……。
出会いは、薔薇園だった。
古き血の中でも、さらに尊い血。竜の一族と呼ばれる吸血鬼達が住まう城にて。彼らに呼び出された兄に伴われ、豪奢な調度品が置かれた古城を訪れた子どもがひとり。
目新しいモノと、見慣れない物ばかりで、あたりをきょときょとと見まわしているうちに、愛しい兄とはぐれてしまって。おさないこどもはまろい頬を真珠の涙で濡らしながら、しゃっくりと上げてとぼとぼとお城の中をさ迷い歩いていた。
会合があっているせいで、場内には人影はなく。子どもの小さな泣き声は、闇を優しく揺らすだけ……。
目元を擦りながら、古城の中を迷い歩く子どもが辿り着いたのは、瑞々しく咲き誇った薔薇の香る美しい庭だった。
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