とりあえずのチョコの話 バラエティパック。お菓子の詰め合わせ。
そんなコンビニでよく見かけるチョコレートが、手の上に置かれた。当然、プレゼントを包む綺麗な包装もなければ、持ち運びに便利な袋もない。ここがコンビニなら、迷わず有料のレジ袋を購入するところである。赤く大きなパッケージは、手に持って歩くには目立ちすぎる。
「……」
チョコだ。チョコである。チョコ以外の何ものでもない。
渡されたチョコをただ無言で見つめる。どこをどう見てもチョコなのだが、それは自分が思い浮かべる『チョコ』と少しどころか、だいぶかけ離れていた。
いや、男同士の場合のバレンタインというものはこういうものなのかもしれない、と頭の中で整理する。百貨店で女性陣にジロジロと見られながら購入した高級ブランドのチョコはバックの中に入っているが、自分のようにアウェイの地に行く男性など滅多にいない。コンビニで購入できるチョコを贈り合うのが、確かに相手を思いやったことなのかもしれない。
「おい……何、固まってんだよ」
「あ、あぁ……すまない。あ、りがとう……」
しまったと思って、慌てて礼を告げる。貰ったくせに何も反応を返すことなく固まったまま、グルグルと考えてしまっていた。
チョコはチョコである。
料理が『それなりに』上手い奴のことだから、手作りのものをくれるのかもしれないと期待していた数分前の自分に、冷静になれと言い聞かせてやりたい。
それと同時に、このバックの中のチョコをどうしようかと考える。
場違いにもほどがある。一旦持ち帰り、ホワイトデーに改めてコンビニで飴玉を購入するのがいいのか。それとも、何倍返しという礼儀に乗っ取りきちんとしたものを返すべきなのか。またシンキングタイムに突入する。
「……くっ、ふふ」
「あ……?」
堪えなかったような笑い声。俺から顔を背けた杁が喉の奥で押し殺したように笑い出す。
「お前……っ、何でそんな……く、フッ、真剣なんだよ」
腹が痛ぇ、と腰を折り曲げて笑う奴を見て、俺は一瞬時が止まったようにポカンと呆ける。
——は? なんだ。じゃあ、これは冗談で渡したということか?
キッと眉を吊り上げようとした時。
「お前のことだから、すぐに突っかかってくるかと思ったが、予想が外れた。まさか素直に受け取るとはな」
「……うるさい」
こっちが本物だと、小さな紙袋を差し出された。ノーブランドのシンプルな袋。おそらく中身は、こいつが作ったものだろう。
差し出されたのなら、こちらも渡さなくてはならない。奴の手作りのチョコに釣り合うかはわからないが、バックの中からキッチリと包装された箱を取り出す。
「ん」
「おう」
「食ったら……感想の一つくらいは言ってやる」
「随分、上から目線だな。まぁ……楽しみしてる」
それはこっちのセリフだと、心の中で呟きながら今度こそ楽しみにしていたチョコを受け取った。