「うわっ、」
他人の熱で蒸された空気と共に、勢いよく地下鉄のホームに押し出される。一気に肌寒さを感じて、ぷるっと身震いした。その直後、ジャケットに入れていた携帯がタイミングよく震える。
『店の中にいる』
『慌てず、ゆっくりおいで』
立て続けに送られてくるメッセージの相手は、中学からの恩師である煉獄杏寿郎だ。中高一貫校であるキメツ学園の教師であり、炭治郎一家が営むKAMADOベーカリーの常連客でもある。そして、炭治郎の意中の相手でもあった。
ここまで来るのに苦節、五年。煉獄とプライベートなやりとりをするのに三年かかり、さらにそこから二年かけて食事をする仲になった。今年の夏、炭治郎が成人してからはお酒の付き合いも加わり、休日の夜は予定を合わせて飲みに行くようになった。月に二回もあればいいほうだが、今月は既に三回目の約束だ。非常にラッキーな月である。
3376