夜明けは勿忘草色をしている朝目覚める時に、小鳥の囀りを意識するようになったのはファウストから小鳥を預けられてからだろう。
目覚めを促すような、ご飯をねだるような愛らしい鳴き声にネロは口元を緩める。託してくれた天狗は昔と違って仏頂面が板に着いているけれど、手紙を出せばきちんと返してくれる律儀さは変わらない。
「よしよし、おまえにも飯を用意するからな」
朝餉の支度をしてからネロは止まり木に止まった小鳥に餌になりそうな米粒や野菜くずを分けてやる。ご相伴に預かろうと近所から雀たちもやってきた。
ファウストとの関係は相変わらず曖昧なままだ。覚えているのか、と呟いていたし、向こうも自分のことを覚えていると期待してもいいような気はしている。けれど切り出し方がわからない。向こうも切り出してくることはない。期待して、本当は覚えていなかったのだとしたら恐らく暫く立ち直れないくらいに落ち込む。
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