相性 side.Aいわゆるイケメン なら、リュウジとアキタ。ジョニーズ系 ならレイや、おまけしてハヤトも…かな。シノブは身長伸びたからどっちでもイケるわね。いい素材になったわよ。
でも、ぱっちりした目に、スッと伸びた鼻筋、凛々しい眉に厚みのある身体つき。ワールドワイドに見たら、もしかするとコイツが1番 カッコいい 気もするのよね。
助手席から覗く横顔は、あの時の面影を残しつつも、なんとも 大人のオトコ で。思わず見つめてしまう。見惚れているわけでは…ない、ことにしとこ。
「さっきからずっとこっち見て、なんだよアズサ。」
「え〜。ツラヌキ、イケメンだなぁ って思って見てたの。」
「はぁ?……ま、まあ、オレは会社でも噂のイケメン次期社長だからな!漢気が見た目にも出ちまってなぁ!」
「……そういうの、照れながら言っても全然成立しないけど。」
耳の赤くなったイケメンにそう言ってやれば、小学生の時のように うるせー と返ってくる。
フロントガラスから見えるうっすらと雪化粧された風景は、庭園や城を囲う木材や植木の姿から、だんだん近代的に変化してゆく。
あの日、ツラヌキはYESともNOとも言わなかった。
言わなかったので、押しかけてしまった。こういうのは勢いが肝心なのだ。
「で、どうだったよ金沢は。見るとこいっぱいあっていいだろ。」
押しかけられて、足にされて、観光に付き合わされたはずのこの男は、何事も無かったように昔見た笑顔で話しかける。
運転中だからこっちは向かないけど。あの日の事、忘れてんじゃ無いの?
少しのノリは、無かったわけじゃない。でも、純粋に いいな と思ったのだ。だから、捕まえようと思った。
ハヤトの代わりにはなれないぞ なんて言われたけど、断じてそんなんじゃない。それがしたいなら、ハヤトの親友に行くわけないでしょ!
昼を過ぎて少ししたくらいだが、この時期の陽はよっぽど帰りを急ぐのか、もう山に向かっている。もう少ししたら空の色も変わってゆくんだろう。
車は、予約しておいた忍者屋敷に近づいたのか、駐車スペースを探すべく徐行している。
「アズサ、今日は切符取ってないんだろ?はくたかの最終、何時だっけ?」
「とりあえず駅に七時半までに着ければいいかな。お土産もちょっと見たいしね。」
「うげぇ……まだなんか買うのかよ。昨日で茶屋街で散々買ってたろ。」
「なによぉ、地元にお金落としてるんだから喜びなさいよ!」
早く会いたくて、かがやきに乗って来た。で、どんな展開になるか、わからないから、帰りは自由席のある、はくたかにしたのだ。
思っていた以上に重症な自分に笑ってしまう。
「別に、今日帰る必要はないんだけどね。」
窓に向かい、ぽつり、小さく漏れた。
運転中のツラヌキには、聞こえるわけは無いけれど。
「アズサー。もう着いてんぞ。」
そう言われて右に振り返れば、ハンドルに上半身を預け、こちらを見つめるツラヌキ。
目が合うと、ゆっくりと下がる実長い睫毛と、緩やかにカーブを描く唇。
他人を、仲間を優先して、大切にする博愛主義なアンタだけど、それは知ってるけど。
でも、そんな顔は見た事ない。
「相性、いいんだろ?
試して帰んなくていいのか?」
…………は??
なんてな。
さ、暗くなっちまう前に早く行こうぜ。
何事も無かったかのように降りてゆくツラヌキ。なんて言ってたかなんて、心臓がうるさくてよくわからなかったけれど。
そして、私といえば、言われた意味さえわからないまま、空になった運転席をただ呆然と見ているしか無かった。