ランチパック 「おっ、あれ俺の大好物、ランチパックのピーナッツじゃないか、買っといてくれたのか?さっすが俺の奥さんは分かってるなぁ」
日曜日の夕方、畜産組合の集まりから帰ってきた小次郎さんが、わたしに口づけながらダイニングテーブルを指差す。
テーブルの一角に置かれたパンのかごの中には小次郎さんの好きなランチパック。
「今日はね、いつもの定番ピーナッツだけじゃなく、深煎りピーナッツってのもあったから買ってきてみたよ。」
俺、これが一番好きなんだよなぁ、そう言って笑ったから、わたしの中のランチパックの定番はピーナッツになった。それまではタマゴが一番好きだったけど。
「夕飯前だけどさ、一緒に食べ比べてみよーぜ」
「えー、ご飯食べられなくなっちゃうよ、今日は小次郎さんのリクエストのハンバーグだよ」
「大丈夫、食える食える、ランチパック食べたあと腹ごなしに美奈子と一緒に運動するんでもいーぞ、俺と一緒に運動、するか?」
そう言いながら、わたしの胸を軽くつつく。
「もー、そうやっていつもからかう、し・ま・せ・ん!」
「なんだ、しないのか、俺はしたいけどな」と熱っぽく見つめて耳元で囁くからどこまでが冗談で、どこまでが本気なのか分からなくて、思わず顔が赤くなる。
「おまえはホントに真面目ちゃんだなー、そーゆー反応されてるとついもう少しいじめたくなるな」
……!! やっぱり冗談だったんだ!!
いじわるだ!!
「そんな意地悪な小次郎さんにはハンバーグの上の目玉焼きは抜きです!!」
わたしも意地悪の仕返しをする。
「それは、悲しい」と本気でしゅんとするから、
「あー、ごめんね、ごめんね、小次郎さん、ウソだよ、目玉焼きちゃんとあるよ」と頭を撫でる。
「ランチパックも一緒に食べる?」唇を尖らせ上目遣いで見てくるから、母性本能とか庇護欲みたいなものがきゅ、きゅ、きゅーんとなってしまう。
「うん、食べよう、一緒に食べよう」
慌ててそう言ったわたしをニヤリと見つめる。
やられたっ!!また騙された!!
そう気付いた時には、もう遅くて、小次郎さんに抱えられてキッチンからダイニングへと連れていかれる、わたしを抱えたままダイニングのテーブルの上からランチパックを掴み、その先リビングのソファーへと、「御影運輸、美奈子とランチパック無事配送完了」と笑う。
「食べよーぜ」
マンガなら吹き出しの周りにうきうき、わくわく、そわそわみたいな書き文字が散りばめられそうな顔をした小次郎さんが、定番と深煎りを両手に持って食べ比べる。
「うん、やっぱこれだよなー、結局これが一番なんだよ」頷きながら定番ピーナッツを口にする。
「ピーナッツクリームがなめらかなんだよね」わたしの言葉に大きく頷き
「だよなー、うめー」と頬張る。リスみたい。
「深煎りは、どーだ……うん、こっちもありだな、クリームがどっしりしてる」
「ホントだ、粒々が思ってたよりいっぱいで美味しい」
「濃厚…コクがあるって言うか、なめらかクリームVSねっとりクリームだな」
「二人一緒だと両方の味が食べれて嬉しいね❤️」
一足先に食べ終わった小次郎さんがわたしを見つめながら、やっぱり運動もしたいなーと囁く。
「んもーっ、小次郎さんはー!!一体どこでスイッチはいっ…むぐっ」
小次郎さんのアップ、その後ろに天井が見えて、ソファーに押し倒されたことに気づく。
「ハンバーグよりも先にデザート食べてもいーか?」
「ここで?」
「ここで」
降ってきた唇から微かにピーナッツの香りがした。