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    soseki1_1

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    soseki1_1

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    オークションでホワイト🔮を強引に競り落とす驚異の部屋🤕/傭占

     この世で最も美しい眼差し。
     シアターか、挙式か、クリスマス当日の高層レストランなどもよもやといった文句は、なんてことはないカタログに記されていた。正確には、カタログの中から切り抜いたたった一枚の紙切れに。
    「ご立派だ。奴は作家になった方がいい」
    「概ね同意見だけどモノは確からしい」
     口ぶりに反して、モグラの態度は信憑性に欠けるものだった。仕入れた品に嵌る宝石を光に透かして見詰めている。下瞼に落ちる輝かしい影も痛くないと言わんばかりに、一途に。
    「天眼。全てを見通す目。過去も未来も全部お手の物だとか」
    「描くのは童話といったところか」
    「童話だろうが寓話だろうが現物があれば人は来る」
     ライトを消し、手にしていた宝石を布にくるむと、金の指先が引き出しを開ける。鬱陶しげな仕草からも、彼がこの件に魅力を感じていないことは察せられた。この男は、眉唾物のお伽話よりも目に見える物に心を奪われる性質だ。輝ける石をどれだけ集めても足りていないのがその証拠である。彼は石の為に幾度も会場に足を運んでいた。ナワーブとの違いはそこだ。
    「ま、顔だけでも出しておきなよ」
     チケットを慣れた手つきで千切り、ナワーブへ差し出す。ナワーブは肩を竦めて、けれども大人しくそれを受け取った。紙切れの上に重ねたチケットは、まさしく童話もかくやといった、夢麗らかな装飾に満ちていた。



     軍を退役させられた際に口止め料として手渡された大金を、珍品に注ぎ込む収集家。ほんの個人的な思惑の買い物も、額が大きければ人を呼び、噂を滲み出すこととなる。戦に疲れた好色家など、様々な噂が広まる中、彼の収集の意図を真実知る者など実のところ極僅かだ。しかし真相は知られずとも金は動くし、物は現れる。ナワーブはどのような名も気に留めることなく手を伸ばすし、惹かれなければ一蹴する。集める物に一貫性はなく、金払いは良い。奇妙な買い物歴から、いつしか彼は驚異の部屋などと呼ばれるに至った。
     名が売れたからには顔を出さなければならない。そうでなくとも、業者や好色家とある程度の関係を保っておかなければ、品を目にすることすら難しくなるのがこの世界だ。そういう訳で、そろそろ何処かへ顔を出しておかなければならなかった。腐れ縁たるモグラから催促されるより前に理解していたことだ。しかし、どうにも気が進まなかった。
     なにせこの会場だ。
    「貴方様にお会いできるなんて光栄です」名は金と共に大きさを増し、身勝手に広まっていく。参加者という同様の立場にも関わらず、恭しく挨拶を紡ぐこの男などが良い例だ。ナワーブは目礼だけを男に返した。不遜と取られても可笑しくない態度に微笑みで返されるのも、知らぬ間に広がっていた名のせいだ。
    「サー、本日のお目当ては?」
     ナワーブはとうとう、僅かながら眉を顰めた。元軍人。この経歴を元にわざとらしい敬称を使う者はそこそこ存在する。ナワーブにとって耳障りな揶揄にしかならない。
     男はそれを解って口にしたのだろう。細やかな意趣返しといったところだろうか。肩を竦め
    「ひとつに惹かれて赴くショーウィンドウは美しい。が、目当てがなくとも宝は美しいものだ」
    「おっしゃる通りで」
     わざとらしく、腐れ縁の言葉を借りる。今日は地下に潜りっぱなしのあの男は、普段はよく…営業も兼ねて各地のオークションへと参加する。なのでチケットの元手が奴だと示せば、大抵の人間は融通を効かせてくれる。これで煩わしい会話から脱せられるだろう。
    「いやなに。さしもの貴方も、あの眼差しに惹かれたのかと。そう思ったのですよ」
     踵を返そうとするナワーブへ、男は仕舞いに言い残す。お伽話の紙切れを言っているとはすぐに理解できた。口ぶりからも、その熱の入った目からも。
    「天眼に加えて、この会場ですから」
     ぎらついた眼は、やけににたにたと笑っている。

     牽制が飛び交う会食場を抜け、指定された席に戻ったとき。ナワーブはそれなりに後悔した。会食の煩わしさを抜け出してまでこの席へ戻ったことを、比較的強く。
    「魅惑の人魚姫の歌声は如何でしたか? オーダーストップ! 人魚姫、レースランド。五千万で落札!」
     喝采とブーイング、どちらも綯交ぜになった不協和音が会場を満たす。おそらく落札者だろう老体が立ち上がり、それらを背に受けながら舞台上へと階段を下っていく。男の目に映るのは舞台に乗せられた品物、ただひとつに違いない。舞台上に転がる……文字通り転がされた少女は、係の者によってシーツを掛けられ、その裸体を覆い隠された。体が隠されたときひときわ強まったブーイングを諸共せず、老人は壇上へと辿り着くと少女と共に袖へと消えていく。ラッピングをする前の品物のように包まれ運ばれる少女が陶然と、愕然と、自分の尊厳を奪った舞台を映していたのを、リーズニングは見つけてしまっていた。
     悪趣味な場所。この会場はある特殊なオークション形式をとっており、それこそがナワーブが腐れ縁とよく呆れを伴って揶揄る原因だ。オーダー時間が前半と後半に分けられており、それぞれで行われるアピールが異なっている。前半は往々のオークションと変わらず、商品に対してただただ掛値を競う。問題は後半で、その時間に入ったとたん会場は様相を変える。品定めと称し、品物を凌辱し始めるのだ。纏わせた服を脱がし、晒された肌に手を伸ばして、その内側までもを衆目の前で暴いて魅せる。前半で掛値札を擡げた参加者のうち、上位何名かが品物を自ら検品する権利を得る。商品は全て人、数は少なく、一品に掛かる時間も長い。タブーとネックを抱えたこのオークションを支えるのは人間の欲望に他ならない。人の欲望は多大かつ幅広いために、様々な人間が会場に集う。挨拶代わりの会場にするのに、これほど最適な場はなかった。
     と言っても、ナワーブはそれでも出席する気などなかった。あの人よりも輝かしい石に惹かれる腐れ縁にチケットと紙きれ一枚を手渡されるまでは、誰が足を運ぶものかと眉を顰めていた。「君、まだあそこの倅と顔も合わせてないだろ」とにかく渋るナワーブにモグラは言ったものだ「挨拶くらいしておきなよ。親も親だが息子もアレだ。拗らせると面倒だぜ」これで縁が切れるならそれでもいいとすらナワーブは思っていた。しかし確かに、執念深い人間を拗らせて良いことはない。このオークションに二度と足を運ばなくていい代わりに、他の取引が潰えるように根回しされる可能性は大いにあった。何より、今回は天眼という大義名分がある。趣味趣向は度外視しても、お伽話の代物をひと目見に来た人間は多くいるに違いなかった。
     そういう訳で最後の品に差し掛かる辺りで戻ってきたつもりだったが、少しばかり目測が外れたらしい。億劫な挨拶から抜け出してきたツケをこんな形で払うとは。ナワーブは音もなく嘆息を吐き出し、席へと腰を据える。痩せた白い体の女の、何が良いというのだろう。眉を顰める瞼の奥に、かつて戦場で目にした赤子を抱き抱える女がちらつく。ゆるく首を振れば、残影は絢爛な照明に掻き消されて何処にも見えなくなった。
    「さあ皆さま、お待たせいたしました!」
     照明が絞られ、全体が暗がりを帯びる。高揚した人々のさざ波が満ちる会場の中。唯一スポットライトを受けた舞台上にて、司会者が声高く宣言する。
     余程力を入れているらしいとは、何からも理解できた。単調だがだからこそ映える光の演出。オーナー自身が司会のマイクを持ち、高揚の声を上げている。そも、カタログの中で一面丸々飾ったのは、この商品だけだった。
    「今宵お集まりになった多くの眼差し。ただし視線が交わるのはただおひとりのみ…! 誰が天からの目をいただけるのか……」
     謳う言葉と共に、ざわめきが息を詰めるほどの緊迫へと移ろいゆく。
     司会者の手が、己の隣に置かれた大きな布を掴む。
    「ご覧いただきましょう!」
     腹から響く声が宣言すると同時に、その手が掴んだ布を大きく翻す。全ての光を閉ざす黒い布が取り払われる様は、さも夜のドレスが揺れるような有り様であった。
     布の下から鳥籠の檻が現れ、細い柵の隙間からその中にあるものが垣間見える。金の装飾が散りばめられた白い薄布が、線の細い体躯へと滑らかに流れている。人魚か天女か、どちらかを模したその出で立ちは華美なものだ。けれどそれらは全て置いてけぼりになっていた。白いベールの下にある双眸のせいで。顔にふたつも嵌まった二対の眼のせいで。空より水より光より、宝石よりも煌めく瞳のせいで。
    「本日の目玉商品、『天眼の少年』でございます!」
     ひと目で美しいとわかった。
     それだけで十分だった。
    「待っていただこう」
     手元にあった札の内、ひとつを掲げて宣言する。まず、司会者がそれを目にしてぎょっと目を丸めたのが解かった。動揺はそこから全体へと伝播し、会場中の視線がナワーブへと向かう。掲げた札には時計の記号が記されている。ハーフタイム……金と引き換えにオークションの時間を一時的に止めるためのものだ。主に後半の時間で使われ、前半で使われることはほとんどない。そう、此度ナワーブが始まって早々にこの札を掲げたことによって、ほとんどという言葉を使わざるを得なくなった。
     さざめきも連なり始めたのを他所に、ナワーブは立ち上がり舞台へと降りていく。そこは扇形に席がはめ込まれ、外に行くほど段差が高くなる会場だった。舞台へ続く階段を下りる程に品物の姿が鮮明と映る。鳥籠の中の姿を目に焼き付けながら舞台へ上がった。
    「彼の目標額は?」
     問いながら、ナワーブはそのときになっても司会者へ目もやらなかった。狼狽えるばかりの司会者……もといオーナーは腰低くナワーブへと歩み寄ると、マイクを切り、小声で答えを返す。
    「そ、そう…でございますね…一億はくだらないかと」
    「では5億出そう」
    「はい?」
    「彼を買うと言っている」
     オーナーは大仰に目を丸くし、息を飲んだ。今は彼しか聞こえていなかったが、もしこれが会場に伝わっていれば皆一様に同じ顔をしたことだろう。それらはナワーブには見えていないことだったが、吃驚は気配で理解できた。しかし全てがどうとでもいいことであった。
    「サー、これはその…今回の目玉商品でして……」
     流石と言ったところだろうか。オーナーはいち早く表情を取り繕うと、しどろもどろにも声を出した。手を擦り合わせ、下卑た笑みをにたにたと浮かべる。
    「うちのオークション形態は存じておりますでしょう? お買い上げは本当に喜ばしいのですが、こう早いと…ねえ?」
    「ダリー・ハグリッド」
     告げれば、予想通り煩わしい声がとたんに途切れた。薄暗いオークションを主宰するオーナーの本名など誰それと知れるものではない。目線をほんの一瞬向けてやれば、先ほどよりも驚嘆と息を飲む男の間抜けた顔が映った。
    「そう驚くな。我々は……そう、君の父の葬儀以来だ」
     微かに笑みをもくれてやって視線を戻す。
    「あの棺桶には遺体がなかった。脅す相手は選ぶべきだ。棺桶に指一本でも残したいのならば」
     青く黙り込んだオーナーを他所に、ナワーブは今一度しかと鳥籠を見つめる。何度見ても美しい。きっとこれからいつ見たとてそう思うのだろう。
    「十億だ」
     鳥籠を模した檻。その中で小鳥よろしく座り込む青年は、そのときばかりは噂の眼を大きく丸めて男を見た。
     それまで眼差しは、目前に広がる客席も、声高々に身勝手な売り込みを叫ぶ司会者も、絢爛な会場も、自らの羽を手折った檻も、なにもかもをぼんやりと映すばかりであった。しかし今ばかりは、ただひたすらに驚異を湛えて男を見ていた。
    「君の眼差しを十億で買おう」
     男は、全ての人から青年を隠すように檻の前に立った。そうして、全てを映す無垢な眼を見つめていた。
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    soseki1_1

    PROGRESSハネムーンクルージングを満喫してるリズホワ/傭占
    (この後手マ♥でホワ🔮を5回はイかせるリズ🤕)
     麗らかな金色に白いベールを被せるハムエッグ。傍らに鮮やかに彩られたサラダを横たわらせた姿は、実に清々しい朝を連想させる。大皿の横に据えられた小皿にはフルーツドレッシングが揺蕩っており、そこから漂うさわやかな香りもそのひと役を買っていた。焼き立てのパンを詰めた籠を手渡したシェフ曰く、朝食時には一番人気のドレッシングらしい。客船に乗ってから数日、船員スタッフは慣れた風に微笑み「良い朝を」とだけ言って、リーズニングをレストランルームから見送った。
     依頼人から報酬代わりのひとつとして受け取ったクルーズは、リーズニングに思いの他安寧を与えている。慣れ親しんだ事務所には遠く及ばないものの、単なる遠出よりは幾らも気軽な心地で居られている。「感謝の気持ちに」という依頼人の言葉と心に嘘偽りはないとは、この数日で理解できた。クルージングの値打ちなど大まかにしか理解出来やしないが、おそらく高級な旅を与えられている。旅行に慣れない人々を満喫へと誘うスタッフの手腕も相応だ。乗船前は不信感すら抱いていたリーズニングも、今はこうしてひとり、レストランルームへ赴けている。満喫こそしているものの、腑抜けになった訳ではない。食事を部屋まで配膳するルームサービスは今なお固辞したままだ。満喫しつつ、警戒は解いて、身なりを保つ。この塩梅を上手く取り持てるようになった。
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    soseki1_1

    DOODLE知らない間にフル⛏になって教🧪を愛でてる探🧲と、それを受け入れてる教🧪と露見 探教/フル教
     白いシャツが似合う人だった。だからその下にある青黒い痕がよく映えていた。
    「ムードがないね」
     いきなり服を剥かれたあの人は、切り傷を伴った痣を腹に晒したまま、慣れたふうに微笑んでいた。
    「相変わらずだ」

     少しずつ可笑しいと気付いた。最初は記憶が飛ぶ夜が続くこと。その夜の後はいつも決まって部屋にいると気付いたこと。それからあの人の様子。僕が記憶を飛ばして、自室のベッドで目を覚ました日。あの人はいつも決まって悪い顔色をしていた。この荘園には肌も何もかも髪だって白いやつもいて、片目の上に青痣を引っ付けてる奴もいる。試合が終わった後は大抵悪いもので、それを次の日に持ち越す奴だって稀じゃない。でも僕は、あの人の肌色だけはよく覚えていたから。だからあの人の、海に輝る太陽に焼かれた方がもっと似合うだろう肌が、部屋に篭っているからいつまでも白い肌が、首元辺りに宝石みたいな鱗が浮き出ている綺麗な肌が、その日だけ決まって悪いことにも気付いた。で、何でだろうと考えた。ハンターの中に苦手な奴がいるのか、それとも薬でもやり始めたか。規則性を見出そうとして、見つけられたものが僕の記憶の欠落と目覚めのことだった。それまでは、酒に溺れて酔いに感けたのだろうと思った。安酒には慣れているけど、それなりの品にこの体はちっとも慣れていない。だから食堂だとか談話室だとかに集まって飲んだ後は記憶が朧げなときも稀にあって、その程度がひどいんだろうと思っていた。でも思えば、僕は記憶が霞むことはあっても、飛ぶくらいに酷い酔い方をしたことなんてなかった。そんな無警戒な真似はするはずがなかった。じゃあなんで記憶が飛んでるのか。僕の体がおかしくなったのか。それがどうしてあの人の青い顔色に繋がるのか。色々考えて、僕は、体に埋まった石ころのことを思い出す。
    2002

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