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    amagasa_69

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    amagasa_69

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    「チョコレートアイス」
    ※付き合ってない風+降
    熱を出した降谷。連絡を入れて自宅で一人休んでいたが、そこへ風見がやってきた。

    風見にチョコアイスを食べさせてもらうラブラブが書きたかったのですが、なぜかこうなってしまいました。
    ラブのラの字もありません。

    #風降
    windfall

    チョコレートアイス熱を出した。
    身体が怠い。頭が痛い。寒い。
    寝返りを打つのも億劫なくらいに、今の体調は最悪だった。
    "風邪をひいた" メールで簡潔にそう伝えて本日行う予定だった情報交換を延期する。ポアロにも連絡を入れた。
    まさか、本当に体調不良で休むことになるとはな、と自嘲する。
    「ケホッ…」
    水分を取らなければ。ゆっくり冷蔵庫まで歩き、飲みかけの600mlのペットボトルを取り出す。
    食欲も時間もなくて昨日から何も食べていないが、今も腹は減っておらず、すぐに食べられそうなものも家にはなかった。
    水を数口含んでベッドサイドに置く。そして、再びベッドに潜り込んだ。
    カーテンの隙間から朝日が差し込む。車や犬や自転車の音がする。通学中の子どもたちの声がする。
    動き出した街の中で、たった一人自分だけがぽつんと取り残されたようだった。


    いつの間にか外は静かになっていた。皆行くべきところに行ったのだろう。
    静寂が耳をつく。
    浅く速い呼吸と、布団が擦れる音と、時折漏れ出る咳。それだけが世界を支配していた。
    早く回復してほしい。体調の悪さ以上の何かが、心に重くのしかかっている。
    何なのかは分からない。
    ただただ、しんどくて仕方がなかった。
    もう充分休んだ。なのに、まだ寒気が引かない。まだ熱が上がる。
    眠ろうと目を瞑っても、暗闇が広がるばかりで眠気はやってこない。上手くいかない自分への苛立ちが募る。


    ガチャ…
    うつらうつらしていた時だった。玄関の扉が開く音で意識が浮上した。
    この家を訪れる者などいない。泥棒か、部屋を間違えた酔っ払いか。誰にせよ、早めに追い出した方が良いだろう。そう思い、ベッドから起き上がろうとした時、寝室の扉が開いた。
    「降谷さん。大丈夫ですか」
    「かざケホッ…」
    「大丈夫じゃないですね。少しだけ待っていてください」
    風見だった。一体どうして。
    水の音が聞こえる。手を洗っているのだろう。
    水の音が止まったかと思うと、風見が戻ってきた。
    「失礼します」
    額に冷たいものが触れた。熱を測っているのだ。冷えた手が気持ちよく、目を細める。
    「熱いですね。熱、測りましたか?」
    首を振る。家に体温計はない。
    熱の高さは仕事に関係しないからだ。熱があったとしても、組織の任務なら行かねばならない。本職もほとんどが代わりの利かない仕事だ。
    そもそもこの身体は、怪我でもしない限り熱なんてほとんど出すことは無い。今回は特例だった。普段、この家では体温計は存在意義がないのだ。
    ぼうっとしていると、上から毛布を掛けられた。
    「少し寝ていてください。持ってきたものを片付けてきます」
    風見の気配が離れていく。頭に響かないようにしてくれたのだろうか、ゆっくり、寝室の扉が慎重に閉められた。
    その後、ビニール袋が擦れる音や冷蔵庫を開閉する音がした。風見の足音がした。
    自分が立てる音しか存在しなかった世界に、風見の音が増えた。自分以外の存在が空気を震わせている。
    何故だろう。それが心地よくて仕方がない。心が安らいでいく。
    「降谷さん」
    脳内で、あの穏やかなテノールが再生される。あの温かな体温を思い出す。
    今まで人の気配があったら眠れなかったのに。どうして、こんなにも、風見の気配は…。



    「ん…」
    暑くて目が覚めた。寒気は無くなり、全身にじんわりと汗をかいている。
    「目が覚めましたか」
    もぞりと身体を動かすと、何か資料を読んでいた風見と目が合った。
    「熱はあまり下がってないですね。暑いですか?着替えます?」
    「ケホッ…着替えるよ」
    ゆっくり起き上がる。
    日が傾き始めていた。時刻を確認すると、風見が来てから5時間も眠ってしまっていた。
    本当はシャワーを浴びて汗を流したかったが、諦めてタオルで拭くだけに留める。着替えただけでもいくらか楽にはなった。
    着替えが終わり再びベッドに腰掛けた頃に、風見が入ってきた。その手には、茶色のカップとスポーツ飲料のペットボトルが握られている。
    ペットボトルを受け取ってその中身を煽り、横になろうとした時、風見に止められた。
    「何か食べましょう」
    茶色のカップの蓋が開けられる。
    「ケホッ…チョコレートは、食事とは、言わないぞ…」
    中身はチョコレートアイスだった。
    「普段ならそうでしょうね。でも、今のあなたは全く食べていないでしょう。まずは食べられるものを食べてエネルギーを摂るのが最優先事項ですよ」
    「エネルギーなら飲み物からだって…」
    「ほら、溶けちゃいますから」
    アイスクリームがのったスプーンを差し出され、仕方なく口を開ける。
    冷たいものが、スっと口の中で溶け、消えていく。
    僕が、体調が悪い時に固形物を受け付けなくなることを風見は知っているのだ。それを踏まえてのこのチョイス。
    「降谷さん、はい」
    また一口。
    甘い。
    大学生だった頃を思い出す。
    あの時は、体調を崩すと景光がアイスを食べさせてくれた。チョコではなくイチゴだったけれど。
    景光が死んでからはずっと1人だった。具合が悪くても1人で耐えた。元々食欲なんてなかったし、何かを買いに行く余裕もなくて、何も食べずにひたすらに眠った。
    これからもずっとそれでよかった。
    こんな甘さ、僕には必要ない。
    手に入れなければ失うこともない。
    だから。
    それなのに。





    僕はもう、風見に侵されているのだ。
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