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    きさき ひめ

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    きさき ひめ

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    リチャ正と恋の自覚

    #リチャ正
    richaMasada

    フリが出来るうちは恋じゃない!「恋人のフリをしてくれませんか」
     真面目な顔をしたリチャードの口から、俺の手にあったお茶請けのクッキーが逃げ出してしまうほど衝撃的な頼み事が飛び出てきたのが数ヶ月前。俺がロンドンに単身で乗り込んだ時。その時の俺はこれでもかと言うほど混乱して、食べかけのクッキーを思い切り机に落としてしまったことにも気づくことが出来なかった。
    「お…」
    「お?」
    「俺が?」
    「はい」
    「リチャードの?」
    「はい」
    「恋人…の、フリ?」
    「パーフェクト。復唱すら出来ないようだったらどうしようかと思いました」
     復唱できなくなるかもしれない程に衝撃的なことを言ったのはお前だ。そんなツッコミをグッと飲み込み、リチャードに拾われたクッキーを受け取りひとまずソーサーに置いた。今食べたら喉に詰まりそうだ。
    「理由は三つ。一つは貴方が言って回った『リチャードを愛している』という言葉の訂正が困難であること。もう一つは今回のことが社交界で噂になるであろうこと。そして最後に一つ。噂は否定すればするほど広がるということ」
    「それで俺に恋人のフリを?」
     リチャードがロイヤルミルクティーを口に含み、飲み下し、ゆっくりと頷く。相も変わらず飲み食いしてるだけでも美しい。
    「ずっと、とは言いません。ほとぼりが冷めるまで、意識してお互いの距離を近くするだけで十分かと。貴方の口はいついかなる時もよく回りますから」
     そうしてあれよあれよという間に恋人のフリをする上での取り決めを語られ、具体的にどうしたらいいのかの説明をされ、更にはダメ押しでもう一撃。
    「私を助けると思って、正義」
     机の上に置いていた手にそっとリチャードの手が重ねられる。眉を下げ、不安げな瞳が揺れる。そんな物憂げな顔で言われたら、受け入れる以外の選択肢は無くなってしまうじゃないか。そうして俺とリチャードの『恋人のフリ』は始まった。
     それからのリチャードは宣言通り、今まで俺が「うっかり」零していた賛辞を丁寧に拾ったり、近くに居たら腰を抱いてきたり、誰かが見ているところで愛の言葉を囁いたりしてきた。もちろん二人きりの時はいつも通りだ。雇用主とバイト。腰も抱かれない。愛の言葉も囁かれない。過度な賛辞には説教が飛んでくる。
     俺はそれに、不満を抱いている。その感情に気づいたのはごく最近だ。

     行き場のない手が空を切る。常連さんがお店を後にし、二人きりになったから、と約束通りに離れていく体温を惜しむように、未練がましく飛び出た俺の手。それに気づいたとき、俺は息が止まるかと思った。いや、実際止まっていたのかもしれない。
     なんだこの手は?
    「正義?」
     急に黙り込んだ俺を不思議に思ったのか、リチャードが振り向く。はっと意識を戻せば、空中で行き場を無くした俺の手が、すぐにでも届きそうな位置に彼が居た。とたんに顔に熱が集中する。一瞬、視界が赤く染まった気がして、足はふらふらとバランスを崩した。
     ガタンッ!
     気づけばリチャードを見上げていた。ハッとして自分の体をみれば、床に尻もちをついている。
    「大丈夫ですか?」
     問いかけながら、傷ひとつ無い美しい手のひらがこちらに伸ばされた。
    「だ、大丈夫。ちょっと……びっくりして」
    「何に」
     しどろもどろに答えれば、再度怪訝な顔で問われる。一瞬、言うか迷ったが、この男に隠し事なんて出来ないだろう。俺はリチャードにめっぽう弱いのだから。
    「……お前が美しくて」
    「左様で」
     ゆるゆると掴んだ手を急にぐいと引かれ、立たされる。突然のことだったのでバランスがとれなくて、俺はリチャードの腕の中に飛び込むような形になった。
    「私は、もっと別のことに驚いたのかと思いました」
     唐突に何を言い出すのか。囁くように紡がれた言葉の意味を考えるより先に、リチャードの腕が腰へと回される。おかしい。息をのむ。どうして。顔があつい。今は二人きりだ。なのにこんなに近い。だってこれは、これは……。
    「正義」
    「なに……」
    「顔が赤いです」
    「わかってる」
    「鼓動もこんなに早い」
    「言わないでくれ」
    「ねえ正義」
    「なんだよ」
    「私はずっと待っていたんですよ」
     待っていたって何を。この距離は何。耳に息がかかる。もうだめかもしれない。何も考えられない。だって俺はリチャードには本当に弱いのに、こんな近くで、こんな、こんな……
    「ようやくここまで来てくれましたね」
     そう言ってにっこりと笑った俺の「恋人」は、神様みたいにうつくしい顔で笑った。
     ああ、もうフリなんて出来そうにない。
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