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    きさき ひめ

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    きさき ひめ

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    普段と違う呼び方っていいなぁという話

    #リチャ正
    richaMasada

    言語オタクの受難リチャードは、ひとことで言えば言語オタクだ。様々な言語に精通し、使いこなし、コミュニケーションをとる。最近の流行語などにも興味があるらしく、この間なんて「ぴえんとは一体何ですか」と訊かれた。俺はそこまで流行に詳しい訳では無いから、ぴえんとやらに関しては、以前それっぽい言葉を連呼していたヴィンスさんに説明を丸投げしておいた。後からスタンプ爆撃でしこたま怒られた。ぴえん。(こんな風に使うらしい)
    さて、そんな事があった数日後。リチャードは優雅に朝食のフルーツ盛り盛りパンケーキを食べたあと、奇妙な頼みごとをした。またリチャードの言語オタクが発動したようだ。
    「いつもとは違う二人称で呼ばれてみたいです」
    「……え?」
    思考が一瞬停止する。二人称。俺はいつもリチャードのこと「リチャード」とか「お前」とか、そういった風に呼んでいるけど、それ以外?ってことか?
    「難しいですか」
    「ちょっと…パッとは思い浮かばないなぁ。リチャードとは付き合いも長いし、呼び方を変えるのって照れくさくて緊張する」
    「でも、面白そうではありませんか?」
    「それはちょっと思ったよ」
    そう、照れくさい。そしてそれ以上に面白そう。俺が選んだ言葉を、リチャードがどんな風に受け止めるのか。笑うのか。それとも呆れたり?呆れ顔の方が鮮明に浮かぶあたり、俺のうっかりもまだまだ治る気配がない。特製フルーツジャムをかけたヨーグルトを食べながら、「考えてみるよ」と答えた。

    快晴。洗濯日和。濡れたシーツを抱えて空を見上げる。二人称にどんなバリエーションがあったか思い出せない俺は、とりあえずなにかしなければと洗濯をしていた。
    二人称。ひろみは俺と似たようなものだ。名前で呼ぶことが多い。ばあちゃんも。下村は完全に俺と同じ。「正義」もしくは「お前」と呼ぶところしか聞いたことがない。この間泊まったホテルの受付は「お客様」、エトランジェに来た常連さんは「中田さん」と「リチャードさん」だった。そもそも今まで二人称を意識したことがなかった。このあたりが、あいつが言語オタクたる所以だろう。あとは市場に行った時に言われた「キミ」「あんた」「お兄ちゃん」「ハンサム」……キリがない。
    ここまで来ると、リチャードを参考にした方が早い。仕事中は名前に様付け、俺のことは正義、あとは………
    「『貴方』、とか……」
    いいかも知れない。キミとかハンサムとかよりはずっと良い。よし、後で呼んでみよう。

    そうして迎えた夕方。リチャードは今日休みのはずだったが、街で修理を頼んでいた置時計の修理が終わったと連絡を受けたので、お昼を食べてから出かけていた。今日の夕飯はパエリアだ。保存がきく真空のパックに詰められた沢山の魚介類は、下村から送られてきたものだ。彼いわく「お店で演奏してたら常連のおばあちゃんが沢山くれた」「細すぎるとか沢山お食べとか言われたけど、食べきれないからお前にやるよ!」とのこと。とことん年上に好かれるタイプだ。
    車の音、そしてジローとサブローが吠える声。しばらくしてから車のドアが開く音、降りる音。ここは開放的に出来ているから、虫や動物たちが静かな日には全部聞こえる。
    ジローとサブローの声が近づいてくる。微かにリチャードの声も聞こえる。ぱたぱたと玄関に走り、扉の前で待機した。
    「ただいま帰りました、正義」
    「お帰りなさい、貴方」
    ……。
    …………。
    固まった。リチャードが。目をまん丸に見開いてしまっている。
    「り、リチャード?大丈夫か?ご飯できてるぞ!あ、それともお風呂が先」
    「一旦、黙って、ください」
    ずるずると壁にもたれてしゃがみこみ、顔に手をあてて深呼吸するさまはどう見ても大丈夫ではない。慌てて隣に座って背中をさする。何度かこの世の終わりのような深呼吸を繰り返した後、リチャードはようやく口を開き、これまたこの世の終わりのような低い声を出した。
    「なぜ……」
    「何故って、お前が言ったんだろ。違う二人称で呼ばれてみたいって」
    俺の顔を見たあとまた深呼吸。というかため息。呆れ顔とはまた違う顔だ。予想が外れたな、なんて思っていると、リチャードはゆっくりと顔をあげた。
    「私は、貴方の、好きな人ですね」
    「えっ、あ、はい」
    唐突なことでびっくりした。俺はリチャードのことを好きだ好きだと言いまくるが、リチャードからそのことを確認されるのは稀だ。
    「そんな人から、帰宅した時に、『あなた』と呼ばれました」
    「うん、そうだけど…………あっ」
    リチャードの言わんとすることがわかった。これはあれだ。俺のやった事は、古き良き時代の夫婦のようなやり取りだ。しかもご飯かお風呂か選ぶところまで。自覚したらじわじわと羞恥が込み上げてきて、顔がすごく熱くなった。
    「理解していただけたようで」
    「はい……」
    顔を手で覆う。こういうことか。リチャードはいつもの呆れ顔で「よろしい」と言い、ゆっくりと立ち上がった。
    「あ、リチャード」
    「何ですか」
    「お風呂とご飯どっちが先かまだ聞いてない」
    リチャードはもう一度しゃがみこみ、俺に長い長い説教をした。
    今日はプリンの数を二個にしよう。
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