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    huwakira

    @huwakira

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    huwakira

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    はーつのNOT監

    ちぇんじりんぐ 吾輩はオタクである。
     漫画を愛し、アニメを吸って、ソシャゲを嗜み、推しのためにATMになることに己の人生をかけて生きてきた生粋のオタクである。
     そんな吾輩、現在本気で死にかけている。主に心が。

    「なんっで既知転……」

     目が覚めたらド派手なビラビラ服着て棺桶に詰め込まれてましたうぇーい!
     ツイステじゃねぇかよ!! しぶで!! 百万回見た!!!!

     まさか狸呼ばわりの猫型のアレが棺桶を開けたりしねぇだろうなと戦々恐々としながら時間が過ぎるのを待ってたんだけど、普通に時間宣言とともに蓋ぱっかんして鏡の前に呼ばれ、さくっと組み分け……じゃなかった寮分けされて列に並ばされた。
     鏡曰く

    「汝の魂は……ハーツラビュル!!」

     は?! なんで?!
     こちとら幼いころから汚部屋の住人、適当こそが我が人生、がさつでいい加減が身上なんですが?!

    「うっわ、死んでも目立たんとこ……」

     まずはあれだ、しぶで履修した、曜日ごとのルールメモ作りからだな……。


     そう思ってたはずなんだけどなぁ?!
     とりあえず、言わせてほしい。なんでこうなったのか、と。

    「あの、えーと、りょ、寮長……」
    「そんなにびくびくしないでおくれ。なにも、叱るつもりで呼び出したわけじゃないんだ」

     優雅に目の前で紅茶のカップを傾けているのは、われらがローズハート寮長。そんな彼にケーキをサーブしているのは副寮長のクローバー先輩で、隣でニコニコ自撮りかましてるのはダイヤモンド先輩……って、ハーツの三大巨頭そろい踏みじゃねぇかよ!

    「君のまとめた『寮則まとめメモ』、読ませてもらったよ。曜日別、用途別と綺麗に分かれていたし、忘れがちだったり勘違いしがちだったりする規則にきちんと注釈が入っているのがとてもよかった」
    「ひぇ、お、おそれいります」

     にこやかな笑顔で寮長に褒められて、喜びより先に思わず恐れおののいてしまうのは許してほしい。
     いやぁね、はじめは、ほんと忘れがちな日々の規則を、ちっちゃいメモ帳にまとめてただけだったんだよ?
     でもさ、ほら、自分、オタクじゃん。一度こう作業し始めるとさ、脳汁でまくって楽しくなってきちゃったりしない?!
     ついつい勢いに任せてスマホ(なぜか普通に持ってた)でソート機能とかつけてまとめを作り始めたらもう止まらなくなっちゃって、ネットで検索した簡単アプリ作成法とか読み込んじゃったりして、うん、気が付いたら「正規版バージョン5.2.03」とかになってたよね?
     そうなったらもうさ、寮生に「当番変わって」とか「お昼おごって」とかそのくらいの対価で配りまくるのも必然なんですよねぇこれが! いやそこそこ楽させてもらいましたとも。感謝されるの嬉しかったし。

    「このアプリが広がってから、違反者は目に見えて減少していてな。本当に助かってるんだ」
    「ヒェ……あああの、自分でなくても、誰かがいつかは実装してたと思うんで……」

     そんな、そんな美声でくつくつ笑いながら、あきらかに初恋泥棒だろお前、な笑顔、向けないでくれませんかねぇ自称普通の男さんよぉ!
     賑やかかと思いきや、実は全然笑ってない目でじっくり観察してるっぽい陽キャ代表も微妙に闇がこんにちはしてるしさぁ! なんでだよぉ!!

    「信賞必罰は法律でも定められている。今回の功績に報いる何かを与えたいと思うんだけれど、希望はあるかい?」

     ふぁっ?!




     突然だが、いきなりこっちの世界に飛ばされた自分は、お約束と言えばお約束、ささやかながら優遇チートがあった。
     一つは、言葉の翻訳。結構どんな言葉でもわかるし読める。これのおかげで、わかんないと思って会話してる人魚の言葉とかも何となく聞き取れたりして、自分でびっくりだよ。
     もう一つが、ユニーク魔法だった。魔法士の中でも優秀なやつだけが持てる自分だけの魔法。そいつを、はじめから持ってたんだよね。

    「だがしかし、ネーミングセンスどこ置いてきたよ」

     頭の中に浮かんだユニークの呪文は、『チェンジリング』だ。妖精のアレか、チェスのそれかはわからない。だが問題は書き文字の方。

    「なんだよ、『実質カロリーゼロ』って」

     まぁ、その効果を知れば納得しかないんだけどな!
     自分のユニーク魔法は、簡単に言えば変換系。食べ物から接種した栄養分……わかりやすく言えばカロリーを、そのまま魔力に変換できる、というもの。
     ただし自分の許容量を超えたら魔力酔いを起こすのは変わらないし、ついでにブロットが消えるわけじゃないから、魔力にものを言わせて使いまくってるとあっさり魔法石は真っ黒になるけど。

     そんなユニークを持ってるから、ずっとやってみたいことがあって。
     今回、ハーツのお偉いさんにご褒美あげるよって言われて、咄嗟に口から出たのは一つだった。

    『あの、お、俺もハーツの台所を借りてもいいですか!』
    『お、なんだ、お前も料理するのか? いいぞ』

     そんな軽い感じ許可が出たことだし、ずっとやりたかったハーツINいけないことキッチン、開催しようと思います!



    「さて、ポムフィオーレの洗礼を受けて肉と脂と糖質に飢えている一年生諸君、初めまして」

     ここに取り出したるは、ソフトフランスとか言われる柔らかめのフランスパン。ハーフサイズのこいつをさらに半分に切って、縦に二つに割り、指でへこみを作ってからたっぷりのバターを塗ってトースターで焼き目をつける。
     そこに塗ったくるのはクリームチーズ。遠慮せず分厚く塗ってやるのが大事だ。
     さらにそこの上に、片方にはピーナツバター、片方にはジャム……今回はクローバー先輩謹製の三種ベリージャム……を塗るというよりはどすんと載せる。うん、この時点で見つめる目線の圧がやばい。
     ピーナツバターの方に輪切りにしたバナナ、ベリージャムの方にカリッカリに焼いたベーコンを丁寧に敷き詰めたら、二つを一つにパターンと。
     それに串を挿して止めたら、たっぷりのバターを溶かしたフライパンにどぽーん、と!

    「はわ、はわわわわ」
    「やべ、たげやべぇ」
    「待って待って、カロリーと脂と甘さの暴力、ビジュアルがすでにヤバい」

     じゅわじゅわちりちり揚げ焼いて、熱々のうちにたっぷりの砂糖をまぶして、うん、これこそがかの有名な伝説の高カロリーサンドイッチ。

    「『英雄の死因』とまで呼ばれた伝説のサンドイッチ、『エルヴィスサンド』です。ご賞味あれ」
    「「「ひゃっはーーー!!」」」

     そのカロリー、実に一人分1万キロカロリー。一口で千キロカロリーのこのポム寮の寮長に全力でケンカを売っているサンドイッチは、自分の作る料理の定番でもある。
     いや本気で美味いんだよ? 意外とサクサク食べられるし、ジャムのおかげが胸やけもわりとしないし。

    「食べ終わったら全部魔力に変換するけど、ビタミンとかミネラルとかその辺は残すから、ストレスもなくなってお肌も綺麗になって食べたいもの食べられて、いいことづくめだろ?」
    「たげめ! ぅんめぇええ!!」
    「あああああずっと、ずっと食べたかったんだよこういうのぉおお」
    「んんんああヤバイ、この罪悪感、背徳の味やっばいいぃい」

     ぴぃぴぃ言ってる連中ににこやかに差し出した自分の掌には、レポートの資料とか、食堂の食券とか、モストロの無料招待券なんかがにこにこ笑顔とともに積み上がっていったのだった。
     あ、ちなみに、死ぬほど面倒くさい油物の片付けも、セルフサービスでお願いします。

    「ほんっと、いい商売ね……」
    「やだなぁ、お金は取ってないっすよ、シェーンハイト先輩」

     満足げに腹をさすりながら出ていく一年生ズを見送りに出てきたところ、そこにはポム寮長であるとんでも美人が不機嫌そうに腕を組んで立っていた。

    「ストレスがなくなるのは大事っすよ。ダイエットだって、チートデーは必要です」
    「それにしたって、よりによってあんな凄まじいもの作る必要はないでしょう?!」
    「極端な方がインパクトあって楽しいじゃないですか」

     自分のこの会食がもたらす効果については認めてくれてるので、不機嫌にはなるけどやめろとは言われない。それでも、自制にゆるみが出るのではと不安なのだろうなぁ、というのはわかる。

    「あっ……ヴィ、ヴィルサン、あ、あの、こ、これは……」
    「……はぁ、エペル、あんたも参加してたのね。まったくもう、唇が脂でてかついてるじゃない、席を立つ前に拭いてきなさい!」
    「ひぇ……あ、あの、食べたこと、は、お、おこらない、んです、か?」

     ふぅ、とため息をつく姿まで、このヴィル様という存在は美しいんだなぁ。こわ。

    「エペル、アタシはアンタに言ったでしょう。言いたいことがあるなら、アタシに勝ってからになさい、って」
    「え、あの、はい」
    「そのアタシが、この二年生には何も言わないってことは、つまりそういうことよ」
    「……えぇえええ?!」

     ば、と音がするほどのオーバーリアクションで振り向いたカワイ子ちゃんに、ひらひらと手を振ってやる。はっはっは、ヤダなぁ。別に決闘とかなんとかしたわけじゃないんだよ?
     ただちょっと、文句を言いに来た先輩の体の中のビタミンミネラルカルシウム、そういう美容に大切なあれこれを、全部魔力に変換してお肌をがっさがさにしてやっただけですともさ。

    「少なくとも、もう二度と敵には回したくないわね」
    「すんげぇ……」

     フヒヒ、このユニーク魔法、意外と便利なんだよなぁ。

    「まぁ、気が向いたらシェーンハイト先輩も食べに来てくださいよ。たまには死ぬほどジャンクなもの食べるのも、経験かもしれませんよ」
    「……考えておくわ」

     開催日時も時間も不定期、気が向いたときに気が向いたものを好きなように作るだけのハーツラビュルINいけないことキッチン。
     厳格を旨とするこの場所にあって、ルールはただ一つ、自分の機嫌を損ねない事のみ。
     髪の毛がごっそり抜けたり肌ががっさがさのぶっつぶつになったり骨がスッカスカのぼろぼろになったりする覚悟があるのなら、そのルールを破ってみるのもいいんじゃないかな。

    「またの御来訪、お待ちしてまーす。美味しいお茶があったら嬉しいなー」
    「はいはい。ほらエペル、行くわよ」
    「は、はい! あの、ごちそうさまでした!」

     つぎはなにをつくろっかなー♪
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