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    huwakira

    @huwakira

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    huwakira

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    毛玉 ある日、いつもならリモートで済ませている授業から、単位が欲しくばせめて月に一度くらいは顔を出せという理不尽な要求を突きつけられてどうにかこうにか自室から出た僕は、一週間分どころか一ヶ月分くらいの気力を使い果たし、ふらふらと安息地を求めて校舎裏の森の中へと足を踏み入れていた。
     油断するとすぐ妖精の悪戯で方向感覚を狂わされるこの森は普段から人気もなく、それでいて学園の敷地内であるから程よく人の手が入っているため、鬱蒼としすぎない程度に木漏れ日で暖かいおかげで恰好のお昼寝スポットになっているのだ。主に、この辺りを根白にしている猫たんたちの。
     右のポケットにちゅるる(猫用のおやつパウチ)、左のポケットに猫たん用のおもちゃを忍ばせて、ワクテカしながらいつもの広場に向かったんだけど。

    「え、は? 何コレ、毛玉?」

     今日は当たり日だったらしく、数匹の子ネコ連れの親猫が数匹コロコロしているその天国のような光景の中に、なぜか混じり込む謎の物体X。
     や、なんというか、バスケットボールとかそのくらい? のサイズの、まんまるい毛の塊が、猫たんに囲まれて転がっているのだ。
     猫たんたちは思い思いにくつろいでいて、その毛玉に警戒する様子はないから、悪いものでないのはわかるけど。
     それにしたって怪しすぎるその物体に、さてどうするべきかと一瞬思考の海に飲まれかけた。

    「ふぁっ……え、猫たんどうしたの、今日はサービス良すぎでは?」

     そんな僕をみて何を思ったのか、ゆるりと体を起こした親猫の一匹が、ホテホテと歩み寄ってきて、僕の足にするりとまとわりついた。
     それをみて大丈夫だと判断したのか、子猫たちが親猫に続き、よじよじわちゃわちゃと足元が極上の楽園。ナニコレカワイイ。

    「待って待って、今おやつを出すでござるー。フヒヒ、お、おもちゃもあるからね……」

     ちゅるるの封を切って差し出せば、我も我もと寄ってきて団子のようになりながらテチテチと舐めてくれて、おもちゃをパタパタ揺らせば右へ左へと同時に顔がむき……はーーーー可愛いがすぎんか。
     うっとりと見惚れてだらしなく表情を崩しても、見ているのは猫たんだけですからな。安心して気を緩められるってもんですわ。
     で、まぁそんなカワイ子ちゃんの中に交じり込む異物であるところの、視界の端にちらちらしてる毛玉がさっきからどうにも気になって仕方ないわけですけども。
     子猫に押されてコロコロ、親猫に尻尾であしらわれてもふもふと、あっちに行ったりこっちに行ったり、大きさの割に大分軽いのか、ちょっとした衝撃でふわふわコロコロと移動しては、行く先々でおもちゃになっているその毛玉。
     多分猫たんたちにはすでに仲間として認識されてるのだろうことは、親猫たちがさりげなく僕の手からブロックする様子で見て取れる。
     無視しきってしまえばいいとは思うんだけど……その、どうにも惹かれるんだよね、あの魅惑の毛並み……。
     地面を転がっているはずなのにふわふわと風に柔らかく揺れる真っ白で細い長いソレ。指を突っ込んだらどんな感触なんだろうか。

    「……ブチのお姉さま……あの、本日の貢物を追加しますゆえ……」

     ここのメンバーの中でも一番の古株である、一等大きなぶちの親猫様に、今回は出すつもりのなかった猫用のささ身ジャーキーを賄賂に差し出せば、しばらく悩んだ様子だったけど、渋々と道を開けてくれた。
     そろりそろりと近寄っても、毛玉は逃げる様子はない。っていうか、生き物なのか、これ? ぱっと見目や口のような場所はないように見える。
     そ、と左右から掬い上げるように触れた瞬間、僕はその場で背後に宇宙を召還することになった。

    「え、は、なにこれ……え、ふわっふわ……え、指、うまる……重さisどこ……?」

     綿か何かを持ち上げているような心もとない重さのそれは、どこまでも指が埋まっていく上に、まさに極上としか言いようのないたまらなく滑らかで触り心地のいい毛玉だった。
     もふもふまふまふとしばし無心でてのひらの間で遊ばせていたけれど、ころり、と一瞬逃げたような動きを見せたことではっと我に返った。

    「っ……ご、ごめんね、いいいいやだった……? その、あまりにも触ってて気持ちよかったから……」

     ゆるゆる、と上の方を撫でるみたいにてのひらでタップしてやると、今度は大丈夫だったらしく大人しくその場にとどまっている。
     思い切って隣に座り込み、胡坐をかいて膝の間に下ろしてみたけど、毛玉はそのまま左足と右足の間でゆぅらゆぅらとしていて、それに反応した子猫たんたちが次々に足の間に……ハワワ、ここが楽園。ダメ、昇天しちゃうでござる。
     しばらくそのままじっとしてたけど、だんだん我慢も限界で、あとで存分に親猫様方に怒られる覚悟でそろりと毛玉を持ち上げた。
     相変わらず重さを感じさせないそのモフモフを、胸のあたりまで持ち上げて、ふぅ、と一度息を吐いて。

    「っすぅーーーーーー」

     一度吐かねば思い切り吸えませんからな!!
     思い切って顔を埋めて吸ったその毛玉は、おひさまの匂いがすると思いきや、不思議なことに、花か何かのようなほのかに甘い香りがした。もしこんな香りのシャンプーがあったら無限リピートするんだけど。
     毛玉はその軽い体を精一杯使って逃れようとしてるようだけど、これはやめられませんわー!

    「ふぎゃーーーー!!!」

     ばりり、とひざに感じた痛みに視線をやれば、案の定、怒りにけを逆立てている親猫様×3……あ、オワタ。

     その後、顔中に引っかき傷を作って帰った僕は、オルトに散々お小言を頂戴したあげく治療を拒否され、生身で医務室に放り込まれることになったのは余談だ。










     そして、さらにその数日後。
     何やら挙動不審な動きを見せたためにオルトに目をつけられた、噂の「オンボロ寮の監督生」氏が、グリム氏を伴ってわが寮に訪ねてくるのは予想外で。
     怒りにごうごうと耳の炎を燃え上がらせたグリム氏の口から、とんでもない事実……数日前、魔法薬の失敗で、毛玉のようになってしまった・・・・・・・・・・・・・監督生氏が、僕の手によって辱められたとの罪状を述べられて派手に炎を吹きかけられることになるんだけど。

     これはもう、一生カギをかけてしまっておきたい黒歴史に認定、ってことで、一つ。





    *******************
    この後もちょくちょく毛玉化すればいいと思うし

    「君の香りがないと眠れなくなっちゃったから責任取って」って告白すればいいと思う

    「毛玉じゃない君も抱いて寝ていい?」って落ちが付けばいいね
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