それは即ち、愛。「伏黒、別の檻行ったでしょ。匂いついてる」
「あー……狼のところに。担当の先輩が、出張研修だから」
虎杖の指摘に、伏黒が決まり悪そうな顔をした。
「駄目だよ、彼奴伏黒のこと狙ってるもん」
虎杖は知っている。
一匹狼という表現が正にぴったりな馴れ合いを嫌う狼の獣人が、偶に手伝いで訪れる伏黒には気を許していることを。そして、伏黒はどちらかと言えば、猫より犬派であることを。
伏黒はこの獣人園に就職する際、イヌ科の担当で希望を出していたようだ。「まあ、確かにイヌ科の担当で希望は出してましたけど――」。廊下の向こうで他の職員に話を振られて、応える伏黒の声。発達した聴覚は正確に一言一句を拾い、ショックを受けた虎杖は思わず耳を塞いでしまった。つい十日程前のことである。
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