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    みもり

    @mimorincho

    お絵描きや小話を自給自足

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    みもり

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    「休め」じゃなくて、「どうする?」って聞かれたいなという話

    大包平に休息を促される話時計はお昼時を少し回った頃。
    今朝から体調が悪かった。熱があるわけでもないし、この程度で仕事をせず寝ているのは癪だと意地を張ったことを後悔し始めていた。良くなるどころか悪化している。横になりたい。
    でも、仕事が終わらない。思わず大きなため息が漏れ、執務室の机に突っ伏した。審神者は中間管理職(のようなもの)、細々した仕事をしているだけで一日が飛ぶように過ぎる。最近本丸業務のシステムが大幅にアップデートされた影響で慣れないのもあり、元々多かった仕事の進みが遅くなっていた。刀剣男士たちもアップデートされたシステムにまだ慣れておらず、指示伝達もあまりうまくいっていない。こちらの伝達や部隊間の伝達がうまくいかず細かなミスやトラブルも起きている。
    疲労からか、頭痛もしてくる。PCのモニターを見ていると頭痛が増すような気がする。でも今日中にこの仕事は終わらせてしまいたい。よし、頑張ろう……。と自分を奮い立たせて上体を起こす。
    その時、「主、今いいか」と執務室の外から見知った近侍の声がした。
    慌てて髪を整え「どうぞ!」と返事する。
    大包平は「失礼する」と言いながら入ってきて、私の机の近くに置いてある椅子に腰掛けた。
    近侍に初めて任命した頃、報告に来る度直立で報告書を読み上げるものだから、こちらが緊張してしまうから座ってほしい、と言って以来先に座ってくれるようになった。
    「今日の遠征部隊からの報告と、……主?」
    大包平が怪訝な顔をしている。まずい、頭痛を我慢していたから目付きが悪かったかもしれない。
    「ごめん、聞いてるよ。続けて」
    「……具合が悪いのか?」
    「えっ……」
    大包平は人のことをよく見ている。私が分かりやすいだけかもしれないけど、疲れている時などよく気づかれてしまう。大包平の前ではきちんとしていたいのだけど、どうも格好つかない。
    「い、いや……、うん、ちょっと具合が悪い……けど全然たいしたことないから、気にしないで」
    大包平が眉尻を下げて私を見る。
    「昨日も遅くまで仕事していただろう」
    「う、うん」
    「俺の報告は急ぎじゃないから後でいい。今やっているものは急ぎか?」
    「いや……そういうわけではないけど、やらないと終わらないし……。今日中にやってしまおうかなって」
    大包平が眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。睨んでいるように見えるが、この顔は何か考え込んでいる時の顔だ。以前は怒っているのかと思って怖かったが、今はそうでないとわかる。なんだろう、仕事の効率が悪いから呆れてるのかな……。
    「……大包平が頑張っているのは知ってる。でも、心配だから無理してまで頑張らなくてもいい。……お前は以前、俺にそう言ったな」
    言った。今でもそう思っている。
    私がそう言ったのは、彼が修行に行くよりもだいぶ前のことだ。その時はピンと来ていない顔をして、「俺は別に無理しているつもりはないが……」と首をひねっていたのを覚えている。
    きっと大包平にとって頑張るというのは当たり前のことで、自分が頑張っている意識がないまま頑張りすぎることがあるのだろうと、修行に行く前はよく心配していたのだ。大包平はそういうひとだし、そういう彼が好きだ。それでも、やはりつらくはないのかとどうしても心配になってしまった時にそう言ってしまった。
    修行から帰ってきて、肩の力が抜けたような大包平を見て安心したものである。
    「い、言いました」
    「俺もお前にそう思っている」
    大包平はまっすぐ私を見て言った。
    「お前がどうしてもやりたいのなら、止めない。だが、俺は無理してほしくないと思っている」
    どうする?と問いかけるように私を見る。
    体調と一緒に弱っていた心がぐらぐらした。正直、このまま甘えて休みたい。でも……。
    「今日は、休む。でも、今日の分の報告書類だけ片付ける」
    それを聞いた大包平は頷いた。
    「わかった。終わったらちゃんと休めよ。俺も手伝う」
    「……ありがとう」
    気遣ってくれたことが嬉しくて、ちょっと泣きそうになったのを隠して、私はPCに向き直った。

    大包平に少し手伝ってもらって無事報告書類は片付いた。
    「終わった……。大包平、ありがとう。助かったよ」
    「たいしたことはしてない。さて」
    大包平は使っていたノートPCを閉じ、こちらに向き直った。
    「さあ。今すぐ自室に行け。さもないと俺が連れて行くぞ」
    冗談なのか本気なのかわからない。でもそれは絶対に無理……!
    「行きます!!大丈夫だから!!おやすみなさい!!」
    私は急いで立ち上がり自室に向かった。
    「ああ。ゆっくり休め」

    大包平は修行から帰ってきてからというもの、以前は言わなかったような冗談や軽口を言うようになった。それ自体は彼の力が抜けたようで嬉しいことだが、私としてはどう受け取っていいのかわからず勝手に困っている。
    元々真面目なひとだし、と考えると、未だに冗談なのか本気なのかわからないことがある。
    でも、大包平に言われなかったら非効率にずるずる仕事をしていたと思うので助かった。明日改めてお礼を言わなきゃ……。と思いながら私は布団にもぐりこんだ。



    「主はああ言えばすぐに休むのだろうか……」
    首をひねりながらのつぶやきは、私の耳には入らなかった。
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