失恋貯金失恋貯金
カチャ、と金属と金属がぶつかる音がして、北の指から離れていった10円玉は小さな貯金箱に吸い込まれていった。
チャリン、とある程度の高さから硬貨を入れた時にする音がしなくなったのはいつだったか。
その貯金箱は、北の部屋の机の上には一番に不似合いだろうと思われるものだった。
去年の正月に、近所のスーパーであった福引で当たったものだ。干支は辰だったから、デフォルメされた龍の、小さくてチープなプラスチックのそれは、そろそろいっぱいになりそうだった。
「潮時、かもな」
北はぼそりとつぶやく。聞きとがめる者なんていなかった。
*
目を奪われた。
初めて「宮侑」というバレー選手を見た時、その感想を言うならば、北には「目を奪われた」としか言いようがなかった。彼の人となりなど知らなかったし、もちろん言葉を交わしたわけでもなかった。
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