偽カップルパーティー会場へ続く長い廊下を二人並んで歩む。進む二人分の靴を赤い絨毯が鈍い音で受け止めていた。
カップル役としてこの宴に潜入し、情報を得て来る事が919としまっくに与えられた任務だ。
「ちっ、なんでてめえなんかと恋人役を……。13の野郎の指示とはいえ、イラつくぜ」
ダークグレーの背広姿をした919が前頭部に手を置き、頭を抱える。
「私だって潜入するならハカセとが良かったわよ。ま、四の五の言ったってしょうがないわ」
「おい、潜入がバレても自分のケツは自分で拭けよ?」
919が横目で鋭い視線を向ける。肩出しの深い紫色をしたマーメイドドレス姿に、心臓がおかしな音を立てた事にイラつきながら。
「あーらお生憎様。私はあんたに護ってもらうほど弱いミューモンじゃないの。それより、ちゃんとバレないようエスコートしなさいよ?」
会場メインの大広間の扉の前に行き着く。
「この俺にいちいち命令すんじゃねえ。だが、やるからには徹底してやるからな。ちゃんと演技に付いて来い」
「はいはい、分かってるわよ」
そして919は彼女に手を添えさせる為に腕を出す。
気に入らないし、彼にとっていけすかないタイプではあるが、
『私はあんたに護ってもらうほど弱いミューモンじゃないの』
これくらい言えるタマでなくては、カップル役なんて嘘でも引き受けなかった。
(おわり)