まだひとのままでまだ日が出ていた頃から飲まず食わずで事件を追っていた菅野は、はたと見た時計が示す時間に一瞬目眩がした。音もなく時を刻む電波時計は、その流れを容易く麻痺させる。時刻はちょうど丑三つ時、とは言えこうも煌々と灯りがついたままでは、流石の霊も寄り付かないだろう。
「夏樹。交代でシャワー」
「はーい。俺最後で大丈夫ですよ」
「俺とお前以外済んでる」
「え、いつの間に」
顔を上げれば、服部が言外に早く出ろと菅野を急かす。思えば、夜の十時あたりから、誰かと会話を交わした記憶がない。オフィス内も閑散としていて、外出か仮眠か、見知った顔の何人かは出払っているようだった。目に見えない力に引っ張られるように、服部の背を追いかけた菅野は、部屋を出た途端広がる暗がりに、真夜中を嫌というほど実感した。
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