阪急の駅を降りて十数分、坂道と階段を登っていくと、北の通う大学がある。キャンパス内には、歴史のありそうな立派な造りの講堂や、近未来感のある研究棟、他にもたくさんの建物が建っている。侑は何もかもが珍しくて、きょろきょろとあたりを見回していた。
「口開いとるで」
隣でキャンパスを案内してくれていた北がくすりとおかしそうに笑う。侑は慌てて口を閉じた。
『北さんの大学見てみたい』
という侑の希望を、北は二つ返事で引き受けた。侑は大学自体に興味があるというよりは、単純に北に会いたかったのだけど。一通り見て回ってから、
「そんで、ここが俺のお気に入りの場所」
と言って案内してくれたのが、キャンパスの端のほうにある記念会館だった。ガラス張りの建物の下の空間が、テラスのように開けていて、街と海を一望できる。侑と北は景色を見渡せる階段に座って、途中で買ってきたペットボトルのドリンクを開けた。
「改めて、春高出場おめでとうな」
「ありがとうございます」
ペットボトルをぶつけ合うと、ぽこん、と間抜けな音が鳴った。早う新幹線とホテル予約せなあかんな、と現実的な話を始めるところに、本気度が表れて嬉しくなる。
「そんで、北さんは最近どうですか?」
尋ねると、北は少し考えながら話始めた。
「授業はまだ全員共通のやつ受けとるな。俺はもっと勉強したいから、農学系の勉強会とか、農業系のサークルとか入っとる」
「……ガチ勢やないですか」
「でもこれがおもろいんよ。サークルは、知らんか品種とか農法とか見られるし、商売に乗せたらどうなるかのシミュレーションもあるしな。勉強会はたまに仙人みたいな人おるで」
侑にはいまいちぴんと来ない話題もあったけれど、話している北は生き生きしているのはよくわかった。
「北さん、なんか楽しそうですね」
「おん、わからんことばっかで、楽しい」
北はドリンクを一口飲んで、
「頑張ってここ来てよかったわ」
と言った。それから目の前に広がる景色を見渡した。
「もっといろんなこと勉強したいし、機会があったら留学もしたい」
「留学⁉」
「成績優秀ならタダで海外行けるらしいで」
北は冗談っぽく笑う。地元で安心していたら、海外に行くとか言い出したけど、関東に行く話を聞いたときのような焦りはなかった。
「行くことになったら、お土産とかください」
「まあ、まだ決まってもない話やけどな」
ひゅう、と夕方の風が吹く。尻が冷たくなってきたな、と思ってきたタイミングで北が立ち上がった。
「そろそろ行くか。飯奢るで」
「あざっす!」
それから食堂に移動して、最近のこととか、これからのことを絶え間なく話して、食堂の閉店まで居座った。一人家に帰る電車はゆりかごみたいで、うっかり少しだけ眠ってしまった。そこでとても幸福な夢を見た気がするけれど、内容はすっかり忘れてしまった。