かずまくんとゴロ美さんのバレンタイン「誰もチョコくれやんかったらゴロ美さんが作ったるわ!」
ゴロ美さんが何気なく言った一言がここ何日かずっと頭の中をぐるぐるしていた。
ゴロ美さんの家に遊びに行って一緒にテレビを見ていた時だった。
バレンタインが近いこともあって、有名ブランドのチョコを集めた催しの紹介やそれに並ぶ客たちにインタビューする内容だった。
「かずまくんはチョコもらうんか?」
急須でお茶を淹れながら、ゴロ美さんは俺に聞いてきた。
「いや……別に……もらわねぇよ。錦は毎年たくさんもらってるけどな」
錦は話し上手で女子たちとも気軽に接しているため、低学年の頃から毎年何人かからチョコをもらっていた。
得意げに話をしつつも、美味いのがあると分けてくれるので、俺も少し食べている。
対して俺は女子どころか錦以外は他の奴とろくにしゃべらないためもらったことはない。
特に気にしていなかったが、ゴロ美さんに聞かれるとなんだか少し恥ずかしい気がして、俺は淹れてもらったお茶を一気に飲み干す。
ゴロ美さんはそんな俺を見てニヤリと笑った。
「そうかー、かずまくん愛想ないからのぉ」
「う、うるせー!」
ついムキになって言ってしまう。自分でもなんだかカッコ悪くて耳が熱くなるのを感じた。
「ふーん、せっかくバレンタインやのに張り合いないやん。……そうや!もし今年も誰もチョコくれやんかったらゴロ美さんが作ったるわ!」
ゴロ美さんは楽しげにそう言うと俺の髪をガシガシと撫でた。
「べ、別に……チョコ欲しくねぇし……!」
そうは言いつつもゴロ美さんから貰えることを考えると、ちょっと良いなと思った。
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学校では女子たちが2月14日が近づくにつれ、そわそわしてチョコやバレンタインの話をたくさんするようになっていた。それが耳に入る度に俺も落ち着かない。いつもなら全く気にしていないのに。女子はこんなにも毎年バレンタインの話をしていただろうかとさえ思った。
「今年は何個貰えるかなぁー」
錦は嬉しそうに皮算用している。これも毎年のことなのだが、今は何故か期待する錦の気持ちが少し分かるような気がした。
2月14日が近づくにつれ、俺はいつのまにかゴロ美さんからもらう(と決まったわけではないのだが)チョコのことばかり考えるようになっていた。
ゴロ美さんはどんなチョコを作ってくれるのだろうか。
家に遊びに行くとおやつを出してくれる。せんべいやスナック菓子などスーパーで買ってきた物が多いが、たまにホットケーキを焼いて出してくれることもある。甘いものは好きな方ではないが、ゴロ美さんが作ってくれるホットケーキはいい匂いがして温かくてふわふわで好きだ。
休みの日だと俺の分の昼ごはんを作ってくれることもあるが、いつも美味い。ゴロ美さんは料理上手のようだ。
ということはチョコを作るのも上手いんじゃないだろうか。錦が分けてくれるチョコよりも絶対美味いはずだ。
そんな風に色々と考えると早くバレンタインが来てほしいと思うようになってしまった。
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バレンタイン当日。
女子達からチョコをもらって嬉しそうに周りの奴に自慢している錦をよそに、俺はさっさと帰る準備を進めていた。
毎年そうだが、俺にチョコを渡す物好きはいないため、帰りの会が終わって皆が喋っていても俺は暇である。
早く帰ってゴロ美さんの家に行く。朝からそれしか頭になかった。
しかし、下駄箱に着いた時、事件は起きた。
なんと、俺の靴の横に見慣れないピンク色の紙袋が置いてあった。
開けると手作りであろう、丸みのあるハート型のチョコが何個か入っていた。
別のやつと間違えたのではないかと思ったが、ご丁寧にも「かずまくんへ」と恥ずかしげな小さい字で書かれたカードが添えてあった。
「嘘だろ……」
まだ誰もいない学校の玄関で思わずそう呟いた。
自分がチョコをもらったという衝撃もあるが、それよりもゴロ美さんのチョコがもらえなくなるということがショックだった。
ふと、下駄箱の端に置かれたゴミ箱に目がいく。
しかし一瞬浮かんだ最低な考えを振り払うようにして俺は入れっぱなしの教科書で膨らんだランドセルにピンクの袋を押し込んだ。
誰かは分からないが俺のために作ってくれたものだ。少し歪なハート型のチョコやメッセージカードの字が一生懸命さを物語っていた。
そんなものを捨てるわけにはいかないのだ。
とはいえ、ゴロ美さんからチョコがもらえなくなったことは予想以上に俺を落ち込ませた。
急いで教室から出てきたはずなのに下校する足取りは重かった。
いっそのこと今日はゴロ美さんの家に行かないでおこうか。
明日になればきっとゴロ美さんもバレンタインなんか忘れているはずだ。
忘れていたらもらえなくてもしょうがない。
そんな変な理屈を考えながら、いつもと違う帰り道に向かいかけたその時、
「かずまくーん!今日は早いなぁ!」
今1番聞きたくない声が頭の上でした。
顔を上げるとスーパーの袋を腕に下げたゴロ美さんがいた。
「ご、ゴロ美さん……っ!」
「ん?どうしたん?チョコもらえやんくって落ち込んどるんか?」
揶揄うように笑うゴロ美さんの「チョコ」という言葉に、思わずドキリとしてしまった。
「ちっ、ちげぇよ…」
そう言ったが、ゴロ美さんは俺の様子が少しおかしいことに気づいたらしく、ぐいっと俺の肩を引き寄せると目を覗き込んできた。
「んー?かずまくんもしかしてもらったんか?チョコ」
ゴロ美さんは変なところで勘が鋭いのだ。嘘がバレなかった試しがない。
「う……うん……」
堪忍して頷く。
「良かったやんかー!誰にもろたん?かずまくんモテモテやなぁ」
ニヤニヤと笑うゴロ美さん。
「……わかんねぇ……下駄箱に入ってたから…」
そう答えるが恥ずかしいのと、ゴロ美さんのチョコがもらえない悲しさで目と頬が熱い。
「なんや、ライバルやのに、誰か分からんのかぁ」
「え?」
ライバル?
予想もしなかった言葉に思わずゴロ美さんの顔を見つめ返してしまう。
「ライバルやろ?かずまくんにチョコあげるんやから。てっきりおらんとおもっとったんやけどなぁー。かずまくんもろたことないて言うとったし」
「……もしかして、くれるのか……?」
「もちろん。もう作ってあるしな。チョコレートケーキやけどな」
かずまくん、いつもようけ食べるでチョコやと小さいやろ?
そう言うゴロ美さんの服を思わず掴んでしまう。嬉しくて。
「な、なんや?どうしたん?」
「……っ!な、なんでもねぇ!」
慌てて手を離す。
ふーん、とゴロ美さんは面白そうに笑うと俺の手をつなぎ、歩き出した。
「けど、全部食べたらあかんよ?せっかくチョコもらったんやでちゃんと今日食べやなあかんで?ケーキは冷蔵庫入れといたら明日も食べれるで……」
そう話すゴロ美さんの声を上の空で聞きながら俺はにやけそうになる顔を必死で抑えながら歩いていた。
end.
ゴロ美さんとかずまくんの素敵おねショタイラストを見かけてから妄想が止まりません。かずまくんは愛想なくても優しい子なので、実際は結構モテてるんじゃないかと思いますが、ゴロ美さんのチョコもらえなくて落ち込むかずまくんを見たかったので、チョコもらったことない子にしてしまいました。