秋光乍洩「捕り物だ、急がねば」
京極堂の座敷で話し込んでいる最中、電話のベルに主人が退席した。帰ってくるなり、彼にしては珍しい様子で、ばたばたと荷物をまとめ始めている。私は何だかわからないまま、湯のみに残る出涸らしの最後を飲み干し乍らその様を眺めていた。
なにやら書き置きのようなものをしたためながら、同時に羽織を肩にかけているせわしなさである。
「ああ関口君まだいたのかい。無駄話は終わりだ。さる知り合いの書肆からね」
京極堂はしばらくののちに、状況が把握できていない私の茫洋とした視線に気付き、呆れた顔をしたあと、片手間に説明をした。一度聞いただけではよくわからない名前の稀覯本が入荷したとか、そのうち数巻を誤って別の書肆に回す本の束に混ぜてしまったらしいとか、そのようなことを言った。
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