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    四 季

    @fourseasongs

    大神、FF6、FF9、ゼルダの伝説ブレスオブザワイルドが好きな人です。

    boothでブレワイに因んだ柄のブックカバー配布中:https://shiki-mochi.booth.pm/

    今のところほぼブレワイリンゼルしかない支部:https://www.pixiv.net/users/63517830

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    四 季

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    新式・英傑の服にまつわるあれこれ妄想(見た目からしてい前の服より高い防御力、隠し場所等々)。
     7/24 (ほとんど加筆していないですが)書き終わりました!

    #ブレワイ
    brawley
    #リンゼル
    zelink
    #ティアキン

    誓い「う〜ん、何ていうか、懐かしいわね」
     そう言って、プルアが楽しそうに、そして意味ありげに微笑む。
     私はその、「意味ありげ」な部分にはあえて触れずに頷いた。
    「そうですね。
     久しぶりなので、手がきちんと覚えているか、心配だったのですが……。
     案外覚えているようで安心しました」
     そう言いながら、私は針を持つ手を動かし、晴れた空のように目の覚めるような青い生地に、白い糸で刺繍を描いていった。

    【誓い】

     そんな何気ないやりとりがあってから数日後のある日、私はプルアと一緒に、ハイラル城を訪れていた。
     かつては厄災に乗っ取られたガーディアンが跋扈し、誰も立ち入ることのできなかった城と城下町だが、今となってはあんなにも恐れられたガーディアンの姿は姿形もなく、もの寂しい廃墟の町が広がっているのみだ。
     厄災を封印し、私が百年ぶりにリンクとの再会を果たしたあの日から、数年の時が流れていた。
     その間に、ハイラルの復興に向けた様々な動きがあった。まずはハイラル中央。ハイラル中に散らばっていた有志の人びとの手助けもあって、城下町の瓦礫はほぼ撤去された。建物が建てられるのはまだまだ先のことになるだろうが、城下町の広場だった場所には簡易な天幕が張られ、建築用の資材も少しずつ運び込まれている。
     それから、ハイラルの各地でも多くの変化があった。リトの村では族長だったカーン様が退き、かつてリンクとともに戦ったテバさんがその跡を継いだ。カカリコ村でも、百年という長きにわたりリンクと私を待ち続けてくれていた族長のインパが、孫娘のパーヤにその座を譲ろうとしているようだ。ゾーラの里ではシド王子の結婚と即位が近いと風の便りに聞いているし、ゴロンシティではユン坊が新たな事業を始めているという。ゲルドの街ではこれといった大きな変化はないが、族長であるルージュと私が親交を深め、私たちはお互いを「親友」と呼べる間柄になっていた。
     そして、私も微力ながら携わったのだが、ハイリア人の村であるハテノ村に学校ができた。そして、発起人である私がその学校で教鞭をとることになり、私の生活の拠点もハテノ村となったのだった。──
     私は数週間ぶりに訪れるハイラル城下町を広場からぐるりと見渡すと、広場から真っ直ぐ北、城の正門へ向かって歩を進めた。
     城の中は瓦礫でところどころ通路が塞がり、階段が崩れ落ちて通れなくなってしまった場所がいくつかあった。リンクから聞いていた道順を通って本丸へと進み、正面の入り口を入り、緋色の絨毯が敷き詰められた通路を進むと、やがて玉座の間に辿り着く。かつてハイラル城の中心であったその場所はまた、かつて厄災と私が百年の間、戦い続けた場所でもあった。
     正式な手続きを踏んでの王への謁見や、儀式で使用する以外には、姫であった私ですらほとんど訪れることのなかった玉座の間だが、かつてそこに立っていた人の姿を思い出すと、懐かしいような寂しいような気持ちで胸がいっぱいになる。とくに今日の私は、腕の中に新しい英傑の服を抱いていたので、どうしても百数年前のあの日を──私が今立っているこの場所で、私があつらえた揃いの青い衣を身につけた五人の仲間たちが英傑に任命された、あの日のことを思い出してしまう。
     私と一緒に玉座の間を訪れたプルアにとってもそれは同じようで、城の中に足を踏み入れてから、彼女は一度も言葉を発してはいなかった。私はハイラル王家の紋章が象られた窓を、窓からら降り注ぐ光を後光のように浴びている玉座を見上げた。そして、かつてこの広間に満ちた、私の父であったハイラル王が英傑たちの任命を高らかに宣言する声、誇りを胸に集った各部族の戦士たち、揃いの鎧に身を包んだ兵士たちの放つ熱気を、まるで昨日のことのようにありありと思い出しては、今ではもうその時にいた人びとがみな、この現世から去ってしまったことへの寂寞の念を抱くのだった。
     私は感傷を振り切るように、かつてこの広間を埋め尽くした人たちの幻をすり抜け、玉座へと向かう階段を登った。
    「確か、この辺りだったと思うけど」
     プルアが辺りを見回しながら、ようやくその重い口を開いた。
     私の少し後ろに斜に構えて立っているプルアの姿は、私より少し年上の、大厄災が起きた頃の姿だ。リンクが回生の眠りから目覚めてしばらくの間は、アンチエイジングしすぎて幼女の姿になってしまっていたという彼女だが、おそらく私の年齢に合わせて外見の年齢を調整してくれたのだろう。数年前、百年ぶりの再会を果たしたインパの姿に、私は、彼女の孫が立派に育つまでに彼女が長生きしてくれた喜びと、長い間待たせてしまったことへの申し訳なさ、感謝の念が涙となって溢れ出すのを止められなかった。そんな私に、プルアは「私は、湿っぽいのは嫌いだからね」と言って、私の記憶の中のままの彼女の姿で現れたのだった。
     プルアとインパ、二人とも、それぞれのやり方で私を信じ、待っていてくれた。そのことが私にとって、どれだけ嬉しかったことか。始まりはハイラルの姫と、王家に仕えるシーカー族という関係だったが、彼女たちと出会えて本当に良かったと心から思った。
     私がハテノ村にあるリンクの生家だった家を譲ってもらい、一旦そこを生活の拠点にしたのは、ハテノ村がハイリア人の村だったからということもあるが、近くにプルアの暮らすハテノ古代研究所があるということも大きな理由の一つだった。
     ハテノ村の私の家は、学校に通う子どもたちや、相談事のある村の人たち、ゾナウ調査隊、シーカー族、そしてリンクと、色々な人がいつでも訪れていいように開放している。多くの人が私を頼って来てくれるのは嬉しいことだが、この新しい英傑の服を作っていることは、誰にも──とくにリンク本人には知られたくなくて、学校が終わった後、古代研究所に通っては少しずつ服を縫い進めていたのだ。
     数日前、この新しい英傑の服を完成させたとき、プルアは私の顔を見つめ、満足そうに微笑んでいた。百数年前、無才の姫であった私は、才能溢れたリンクに後ろめたさと嫉妬心を抱き、彼のための服を作ることに気が進まず、針を縫う手も捗らなかった。そんな私を、プルアは気怠そうに、また、退屈そうに見つめていた。
     だが今回、リンクに知られないようハテノ古代研究所で時間を縫って、新たに英傑の服を繕っている私を──百数年前とは異なり、逸る気持ちを抑えないと繕う手が震えそうだった私を、プルアは嬉しそうに見守ってくれていたのだった。

    「あ、これこれ。今もちゃんと仕掛けが動くみたい。さっすがシーカー族の作った技術よね」
     そう言いながら、プルアが燭台をあれこれいじると、玉座の後ろにある像──ハイラル王家の紋章である鳥を象った像が動き、像の置かれていた台座の中に空間が現れた。有事の際には重要なものを隠し、あるいは王自身が隠れるために使われていた空間だ。この他にも、城の至る所にある隠し通路や地下通路の存在を、私はシーカー族の古老であるインパとプルアから聞いて知った。ハイラルの王が亡くなって百年経ち、王家の血を受け継ぐ後継者である私がようやく戻ってきたためだ。不思議なことに、王とその側近にしか知らされないこれらの仕掛けや隠し通路の存在を聞かされて、私はようやく、ああ、ハイラル王家の血を次代に受け継ぐのは、私をおいて他はなく、私が次のハイラルの王なのだという実感を抱くに至った。
     私は玉座から、かつて御父様が見つめていたであろう景色を眺めた。かつては御父様が座り、隣に御母様が座っていたであろう二つの椅子は、片方が壊れてしまっている。それでも、玉座の各所に凝らされた意匠や荘厳な彫刻は、かつてのハイラル城の繁栄をうかがわせた。御父様が──国王が座っていた玉座は空席のまま残されているが、私はまだ、そこに座る気にはなれなかった。
     玉座にそっと手を置き、私はふと思いを巡らす。
     ──いつになったら覚悟を決めるのか。
     そう、口には出さないが、多くの人が私に問いかけてくる。
     この英傑の服を織り上げたことですら、私はプルアにしか告げていない。かつて英傑たちが身に纏った服を、再び彼に贈ること。私は、そのことが持つ二重の意味に気づいて躊躇している。そして、私が贈れば、何のためらいもなく受け取ってくれるであろう彼の気持ちを、はかりかねている。

    「それにしても姫様、大変だったんじゃない? 素材を手に入れるの。
     百数年前なら初めから材料が用意されてたけど、まだまだ物流は良くないし、布を織るのも一からだったし」
     思考の袋小路にはまりがちな私のことをよく理解しているためか、プルアが明るく私に話しかけた。
     私は頷く。
    「そうですね。とくにプルアやインパの協力がなかったら、材料を手に入れるのは難しかったかもしれません。
     このハイラルを誰より一番よく知っている人に頼むわけにもいきませんし」
    「その相手への贈り物だもんねえ」
     そう言ってプルアは笑った。
     布の生地となる素材を集めるのは、シーカー族の手を借りてしまった。機織り機も、もともと手先が器用で、自分たちで独自の衣装を作っているカカリコ村の人たちから借りた。染色については、ハテノ村で古くからの染色技法を引き継いでいる染色屋さんに教わって色を染めた。色々な人の協力を得て、ようやくこの服を仕上げることができたのだ。
     とはいえ一番大変だったのは、プルアの言う通り素材集めで、英傑の服の空のように明るい青色を出す染料──姫しずかを手に入れることだった。厄災封印後間もない頃、たまたまリンクとゾーラの里へ出かけるさいに、サハスーラ平原の辺り一面に咲き誇っていた姫しずかを見かけて、後で摘んで保存しておき、染色の材料としたのだが、あれ以来、サハスーラ平原であの日のように姫しずかが咲き誇っている光景を目にしたことはない。まるで、姫しずかが、自らの役目を果たしたとでもいうかのように。
     新しいハイラルの地平に咲いた姫しずか。その花で染めた布で織り上げた服に、私はつい先日、最後の刺繍を入れ終え、今日ここにこうして、この服を携えて来た。
     宝箱の中に服をしまったものの、蓋を閉められないまま、私はプルアに説明するような形で口を開く。
    「英傑の服は、以前はどちらかといえば象徴的な意味合いが強かったのですが、今後もリンクが着用してくれることを考えると、もう少し防御面と耐久性を上げようかと思って……。
     それもあって、完成に時間がかかりました」
     以前の英傑の服は、儀礼的な意味合いが強かった。王家の青を纏う五人の英傑と、その長である姫という、ハイラルの希望の象徴。だが、百数年前にあの青を纏っていた六人のうち、残されたのは二人だけ。そしてそのうちの片方である私に、戦う力はない。
     リンクが今後も、この英傑の服を身に纏い、新たな未来へ進み始めたハイラルを、そして私を護ってくれるというなら、私はこの服に、百数年前に込めたものとは別の祈りを込めようと思った。私の歩む道が、彼の歩む道となるように。これからも彼とずっと傍にいられるように。そしてもし、共にいられなくなる時が訪れたとしても、この服が、私の分まで彼のことを護ってくれるように。
     今度の英傑の服は、以前のものとは違い、重ね着をすることを前提としている。服の生地自体の強度はそれほど上げられないためだ。その分、鎖帷子を下に着込めるようにし、肩当てや手甲をつけて手や腕の防御力を上げた。防御力を考慮したといえば聞こえはいいが、要は、リンクに「これまで以上に強大な敵と戦い、私を護って、危機に晒されて下さい」と言っているようなものだ。そして、女性が戦士である男性に戎衣を贈るということは、これで自分を生涯にわたり護って欲しいという、求婚の意味もある。
     ──だから、二重の意味が込められたこの服のことを、プルア以外の誰にも話す気にはなれなくて、私はこうしてこの場所に、隠すようにしまうことにした。百数年前の時のように、大義名分だけでこの服を彼に渡すことは、私にはもうできない。私がこの服を手渡せば、彼は必ず受け取ってくれるだろう。だが叶うなら、彼にこの服を見つけ出して欲しいと──この服を再び身に纏うことは彼自身の意志なのだと、そう、私に示して欲しいと願うことは、きっと、私のわがままなのだろうから。

     長考のすえ、私は意を決して、宝箱の蓋を閉めた。
     プルアが仕掛けを作動させると、再び玉座の後ろの像が元の位置に戻る。それを見て小さくため息をついた私に、後ろからプルアが声をかけた。
    「──それで、ゼルダ様。
     いつリンクに言うの?」
     私が振り向くと、見た目より遥かに長い年月を生きてきたことが察せられるような老獪な表情を浮かべたプルアが、私を見つめていた。
     いつ渡すの? とはプルアは訊かない。考えを見透かされているのだと分かり、私は微かに笑った。
    「……城の地下の調査から戻ったら、この服をリンクに渡そうと思っています。
     ハテノ村の家は村の人たちだけでなく、彼にも自由に出入りしてもらっているので、それよりはあまり人の近づかないこちらのほうが、服を隠しておくには良いかと。
     それに──」
     私がそこまで言って言葉を切ると、プルアは分かっていると言わんばかりの笑顔で頷いた。
    「それに、ここは玉座の間。
     百数年前、リンクが姫様に剣を捧げて、騎士の誓いを立てた場所でもある。
     同じ場所で今度は、姫様はリンクに、その服を贈って、誓いを立てるわけね?
     リンクからもらった髪留めに対する返事を」
     自分では口にするのが憚られたことを、プルアがきっちり説明してくれるので、私は思わず反射的に「は、はい」と上擦った声で応えてしまった。
     百数年前にあった伝統だが、ハイリア人の騎士は、騎士の家系に生まれた子どもであれば幼少期に、それ以外の者であれば騎士に叙任される際に、耳飾りや髪飾りを身につける。たんなる儀礼の一つとなってしまっていたきらいはあるが、本来は魔物との戦いで遺体が家族のもとへ戻れないときなどに、故人の身につけていたそれらの装飾品を形見として持ち帰るためだ。そして、もちろん、それには認識票としての役割もある。
     代々続く騎士の家系に生まれた彼は、やはり幼い頃に御母様から、そして成人して城に上がるときに御父様から、それぞれ髪飾りと耳飾りを授けられたそうだ。
     幼少期から騎士になった後も、そして百年に及ぶ回生の眠りの間も彼が身につけていた髪飾りだが、そのぶん傷みが激しく、そろそろ新しい物にしようかと彼が言っていたのを聞いて、私は思わず、「私がそれを頂いても良いでしょうか?」と彼に問うていた。それは本当に何気ない、日常の一幕で──日が暮れた後のハテノ村で、私が学校での仕事を終えて帰り、リンクの作ってくれた夕食を食べ終えて、くつろいでいたときのことだ。
     そのときのリンクは──彼にしてはとても珍しいことに──驚きに目を見開き、しばらくの間、全身の動きを止めていた。そして、信じられないものを見るような、けれどどこか不思議な輝き──私の見間違いでなければ、多分、きっと、期待──に満ちた目で私を見つめた。もう私は亡国の姫でしかなく、貴方と私は主従関係ではないとどれだけ言っても、「不敬なので」と私と正面から目を合わせたり、並んで歩いたりすることをよしとしなかった、あの、リンクが。
    「リンク?」
     私が名を呼ぶと、リンクははっと我に返り、自分の態度を恥じているかのように、いつもの無表情に戻ってしまった。
     思わず口にしてしまったが、考えてみれば、異性が常日頃から愛用し、身につけていた物を欲しがるということは、貴方を欲しているということと同義で──。今さらながらにそのことに気づいてあたふたした私を尻目に、リンクは自然な動きで髪飾りを外すと、私のほうへと髪飾りを差し出した。私も、手を差し伸べてそれを両手でそっと受け取る。差し出したリンクの手も、受け取る私の手も、きっと、小刻みに揺れていたはずだ。──

     私たちは、あれから、お互い何か明確な言葉で誓いを交わしてはいない。
     多分、ずっと昔──百数年前から、お互いにとって、お互いがかけがえのない存在だと気づいてはいるけれど、失ってしまったものへの悔恨や、お互いに対して抱く贖罪の念が、私たちを踏みとどまらせる。
     貴方は私を百年間独りで戦わせてしまったことに。
     私は貴方を百年間眠りに就かせてしまったことに。
     そしてハイラル復興の途の道のりの険しさも、私たちの前に厳然として立ち塞がっている。

     城の地下の調査から戻ったら。
     それは私が一つの区切りとして定めたものだ。
     ハイラルの多くの人びとに体調不良をもたらしている瘴気が城の地下から湧き出ていることを調べ上げたのは、リンクだった。
     慌ててシーカー族とともにその原因と対処法を探し始めたのだが、予想以上に瘴気の範囲の拡大と、人体への被害が早かった。ようやく瘴気の原因がハイラル城の地下にあると突き止め、王家の末裔である私と、私付の騎士であるリンクが調査に赴くことに決めたのだった。
     プルアは普段から手に持っている指示棒代わりの縦笛らしきもので、考え事をするときのように自分の肩をぽんぽんと叩いた。
    「瘴気、ねえ。
     確かに体調を崩す人も多いし、ハイラル城の地下から湧いて出ているわけだけど、何もゼルダ様とリンクが率先して調査しなくても良いんじゃない?
     それに、ゼルダ様にとってはこの調査が一つの区切りなんだろうけど、昔々のハイラルの初代国王? は、王妃と一緒に各地に赴いて魔を浄化したっていう言い伝えもあるみたいだし、姫と騎士で行くより国王夫婦としてが行ったほうが、民も安心して喜ぶんじゃない?
     二人のことを知っている人からしたら、もう今更っていうか、そういうふうに見てると思うし」
     まあ瘴気を解決して、その褒美として姫様を娶るっていう流れもアリかな、とプルアが言うので、私は思わず「プルア!」と声を荒げてしまった。
     ムキになった私を見て、プルアが楽しそうに笑う。
    「ゼルダ様は自分たちの関係がハイラルの未来にも色々影響を与えるし、過去のことも色々あるって思い悩んでるんだろうけど。
     百数年前から二人を見てきた私たちが、二人の関係に、二人が築いていく未来に、希望を抱いているんだってことも、忘れないでよ」
     インパは姫様の花嫁姿と御子をこの目で見るまで死ねぬ〜って言ってるんだからね! と、プルアが冗談めかして付け加える。
    「私やロベリーもね!
     でもそうすると、私たちの長生きのためには、二人にはもう少しやきもきさせてもらったほうがいいのかもしれないけどね。
     まあ、さも当然のように、ゼルダ様の作ったその服を着ているリンクの姿は思い浮かぶわ」
     ──それについては私も、何となくそんな気がしている。
     リンクは隠しておきたい秘密をあえて曝くような人ではないけれど、思いがけない人の思いを見つけてくれるのだ。例えば、城の図書館、御父様の書斎に隠されていた日記のように。
     ──でも。
    「……この服にこめられた意味を知った上でこの服を見つけてくれて、そして、当然のようにこの服を着てくれたら、どんなに……どんなにか、幸せなことでしょうね」
     それはあまりにも都合の良すぎる願いだと分かっている。分かってはいるけれど。
     呟くように言った私の後ろで、プルアが長く深く息を吐き出す。安堵しているような、微笑んでいるかのようなその表情は、「大丈夫よ」と私に言ってくれていた。
     私はプルアに向かって頷くと、振り返って玉座を見つめた。空席のうえ、王配の座す椅子が壊れてしまったままのその場所を。
    「──とはいえ、ゼルダ様は、早くリンクに、新しい服を作ってあげたって雰囲気だけは匂わせてあげた方がいいかもね。
     アイツ結局、傷んだままの前の服に肩当てとか胸当てつけて着続けてるんでしょ? あれって、きっとゼルダ様に、『早く新しい服を作って下さい』って遠回しに言ってるのよ。実は髪飾りの返事をそうやって待ってるのよ、アイツは」
     ゼルダ様もホント、面倒臭い男に捕まったわよね。
     そう言い放つプルアに、私は何と答えたら良いか分からず、「そんなことは、ないと思いますが……」と小さく反論した。ちなみにそれは、プルアの言う「リンクが返事を待っている」「面倒臭い男に捕まった」の両方に対しての反論だった。
     だが、英傑の服を「傷んできたので、応急処置になってしまいますが、繕いますね」と言えば、素直に私に古い英傑の服を手渡し、私が服を繕うのをじっと無言で見つめているリンクの姿を思い出すと、プルアの言うこともあながち間違ってはいないのかも、と思えてきた。私のその、「間違ってはいないのかも」という考えももちろん、「リンクが返事を待っている」と、「面倒臭い男に捕まった」の両方にかかるわけだけれど。
    「ゼルダ様も知らないうちにさっさとあの服を見つけ出して、当然のようにあの服を着て私に見せに来るアイツの顔が思い浮かぶわ……」
     それは私も、何となくそんな気がしている。
     その光景を思い浮かべて、私とプルアは小さく苦笑した。

     本丸を出た私たちが坂を下り、城門のほうへ向かっていくと、門の前に人影が見えた。リンクだ。
     私の行く先は彼に告げていたが、それにしても迎えに来るのが早い。私が嬉しいような困ったような気持ちでいると、プルアが小さく「あ〜あ」と呟いた。
    「リンクがどこにいてもゼルダ様を探し出すように、ゼルダ様の想いのこもったあの服も、アイツはすぐに見つけ出すわよ、きっと」
     プルアの言葉に、私は今度こそ、確信をもって頷いた。
    「ええ、きっと。
     そうですね」
     リンクはじっとこちらを見つめたまま、私を待っている。
     私はどこにいても私を探し出してくれる彼のもとへと、駆け寄って行った。
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    四 季

    DONEリンクが姫様に自分の家を譲ったことに対する自分なりの考えを二次創作にしようという試み。(改題前:『ホームカミング』)
    帰郷「本当に、良いのですか?」
     ゼルダの問いかけに、リンクははっきり頷き、「はい」と言葉少なに肯定の意を示した。
     リンクのその、言葉少ないながらもゼルダの拒絶を認めない、よく言えば毅然とした、悪く言えば頑ななその態度が、百年と少し前の、まだゼルダの騎士だった頃の彼の姿を思い起こさせるので、ゼルダは小さくため息を吐いた。

     ハイラルを救った姫巫女と勇者である二人がそうして真面目な表情で顔を突き合わせているのは、往時の面影もないほど崩れ、朽ち果ててしまったハイラルの城でも、王家ゆかりの地でもなく、ハイラルの東の果てのハイリア人の村・ハテノ村にある、ごくありふれた民家の中だった。
     家の裏手にあるエボニ山の頂で、いつからか育った桜の樹の花の蕾がほころび始め、吹き下ろす風に混じる匂いや、ラネール山を白く染め上げる万年雪の積もり具合から春の兆しを感じたハテノ村の人びとが、芽吹の季節に向けて農作業を始める、ちょうどそんな頃のことだった。ゼルダの知らないうちに旅支度を整えたリンクが、突然、ゼルダにハテノ村の家を譲り、しばらく旅に出かける──そう告げたのは。
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